自然にあらがわない
無理をしない富士登山

 ご来光を眺めた後は、いざ山頂に向けて出発する予定だったが、この日は強風で、天気は下り坂。近藤さんから山頂の最新情報を聞き、結局、自分自身でここから先は登らないという選択をした。

 無理をすれば途中までは登れなくもないこんな状況のときは、近藤さんの一存ではなく、登山者の想いにより行程が決まる。

 もし、このとき「せっかく準備をしたのだし、ここまで来たのだから」と無理をしていたら、私は二度と富士山に登りたくないと思ってしまったことだろう。「自然にあらがわない。その中で最高級の富士登山をしましょう」と、近藤さんも賛成してくれた。

 山頂にこそたどり着けなかったものの、快適な「グラマラス富士登山」は続く。「東洋館」で淹れたてのコーヒーを飲んだ後、下山道へ。帰路は登山よりも辛いと聞いていたけれど、ゆっくり焦ることなく進むことで、なんなくクリア。清々しい気持ちでゴールの五合目に到着した。

 初めての富士登山は、それまで思い描いていた「辛い」「達成感だけを目的に登る」といったイメージとは真逆の、想像をはるかに超える素晴らしい時間だった。富士山を「登った」というよりも「感じた」といったほうが正しいかもしれない。

 音や光にまみれ、人混みのなかで過ごすことで疲弊した心を、富士山は洗濯してくれる。江戸時代の人々も持っていた霊峰富士への想いや、自然から発せられるメッセージをふんわりと感じながら歩くのは、とても気持ちがいいものだった。

 でも、そのためには、富士山の文化や歴史にきちんと向き合う心も大切。そんなことにも、「グラマラス富士山登山」は気づかせてくれた。あれだけ不安だらけだったのに、今は「来年のシーズンもまた富士山をめざしたい!」と思っている。

星のや富士

所在地 山梨県南都留郡富士河口湖町大石1408
電話番号 0570-073-066(星のや総合予約)
https://hoshinoya.com/

【衣装提供】
La Mont

https://lamont.jp/

芹澤和美 (せりざわ かずみ)

アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオ ノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.journalhouse.co.jp/

Column

ウェルネスを極める 星野リゾートの旅

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2018.09.30(日)
文=芹澤和美
撮影=鈴木七絵