自然と文化を感じるからこそ
富士山は面白い!

 いよいよ富士登山当日。「星のや富士」から車で約1時間の富士山五合目に向かい、まずはランチ。お土産物店をぶらぶらしたり、小御嶽神社に参拝したりした後、ガイドの近藤さんと合流、装備の最終チェックや準備運動をし、14時頃から登山がスタートする。

 五合目に着いて登山を始めるまで約3時間。一般的なツアーに比べるとかなり長い時間をここで過ごす理由は、高度順応するためと、登山客が一気に登り始めるラッシュを避けるため。

 初日はゆっくりと4時間ほどかけて登り、八合目付近の山小屋「東洋館」に宿泊。しっかりと睡眠をとり体力を回復させた翌朝、ご来光を眺めた後に山頂へと出発するのが「グラマラス富士登山」の基本的なスケジュール。

 近年の富士登山では、山小屋を利用しない日帰り行程や、ご来光を山頂で見るべく夜のうちに山小屋を出発し、登山客で大渋滞のなかヘッドライトで足元を照らしながら登るケースも珍しくない。だが、「グラマラス富士登山」はあくまでも安全な日中登山にこだわっている。

 登山道を歩きはじめて気づくのは、私たちがほかの登山者よりもスローペースで歩いていること。最初は物足りないと思うかもしれない。

 でも、「亀のような速度で、ペンギンのような歩幅で。深く呼吸しながら」という近藤さんのアドバイスを守っていると、疲れは少なく、心の余裕もあるからか周囲の自然も目に飛び込んでくる。

 岩と岩の間に咲く小さな花を見つけたときの喜び、雪の影響で不思議な形に曲がった木の不思議さ、森を抜ける風の匂い……。草鞋とすげ笠で山頂をめざした江戸時代の人と同じ気持ちを共有できたようで、なんだか嬉しい。

 六合目を過ぎると、しばらくジグザグの広い道が続き、やがて急な岩場が現れる。でも、速度と歩幅と深呼吸をキープしていれば、身体はそれほど辛くない。むしろ、「気づいたらこんなに高いところまで登っていた」という感じだ。

 ちなみに、私は運動が大の苦手。650回を超える富士登山ガイドの経験を持つ近藤さんが、呼吸の様子を見ながら絶妙のタイミングで休憩をとったり、歩くスピードを調整してくれたりするからこそ、苦もなく楽しく登れたのだと思う。

 もし、万が一へとへとになってしまったとしても、いざとなれば荷物を代わりに持ってくれるアシスタントガイドも同行しているから心配は無用。最大5名定員の完全プライベートツアーに2名のガイドがいるのは、とても心強い。

 マイペースをキープしながらゴールの「東洋館」に到着すると、スタッフが温かく迎えてくれた。

2018.09.30(日)
文=芹澤和美
撮影=鈴木七絵