今月のテーマ「セブンティ、エイティ」
【MAN】
70歳(セブンティ)の妻が
初産(ウイザン)に挑む
65歳で会社を定年退職した日、江月朝一は、5つ歳上の妻・夕子から衝撃的な告白を受ける。「妊娠しました」。夫婦の間に子どもはなく、とうの昔に諦めていた朝一は、おろおろした挙げ句にコメントする。「お、俺の子か?」。70歳で初産を迎えた妻と65歳の夫という、ほとんどファンタジーだけれど可能性がゼロではない状況設定を、リアルにシミュレート。超高齢出産にまつわるネガティブな想像力をできるだけ排除するかわりに、倒れた妻を見て夫が思わず「脳梗塞!?」「つわりだっつーの!」など、コミカルさをプラス。
生まれてくる子どもと一緒にいられる時間が、2人には絶対的に短い。子どもが大きくなった時、自分たちはもういないのかもしれない。でも――「誰よりも長い時間望まれて生まれてきたことを忘れないでください」。70歳の初産となったからこそ放たれたメッセージが、人が子をなし親となる奇跡と感動を高めている。
『セブンティウイザン~70才の初産~』(既刊3巻) タイム涼介
ギャグと叙情性(泣き)を同居させる作風で知られる漫画家が手掛けた、長篇ストーリー。70歳の妻が、65歳の夫のサポートのもと、初産に挑む。作中で触れられている、インド人女性が70歳で初産を果たしたというニュースは昨年起こった事実。「くらげバンチ」連載中。
新潮社 580円
2017.05.02(火)
文=吉田大助