今月のテーマ「シングルファーザー」
【MAN】
赤の他人なら面白いから許す!?
身内にはしたくないダメ父の愛
子どもが人生の道しるべとして憧れるような“父の背中”を見せられるかが、養育する者の務め。だが、いつまで経ってもうだつの上がらないマンガ家・秋津薫は、食事作りも息子やアシスタントの西に頼り切りだし、締切は編集者の村瀬を病ませてまで逃げ回るし、窮地にいる同業の山口を見下すのが大好きというゲスな男。ひと粒種のいらかが小学生にして成熟してしまっている原因は父に他ならず、不憫でならない。
だが、子どもを一人前にすることが親の役割だとするならば、秋津以上に反面教師になれる人物はまずいない。いらかが〈なんでこんな絵の為に悩んだり病気になったり……なんかぬるぬるして気持ち悪い〉と徹底的に父を疎む一方で、ひそかに〈創作の快楽の味を確かめてみたくもある〉とハムレットばりに悩むところを見ると、同じDNAを継いでいるらしい。見ようによっては、とても幸福な父と子の物語だ。
『秋津』(全2巻) 室井大資
妻に愛想を尽かされて出て行かれた後も、男手ひとつで、ひと粒種のいらかを立派な少年に育て上げた秋津。人としても仕事のしかたもクズだけど、マンガの才能を見抜く目はあるし、教訓を吐かせたら、人生におけるその役に立たなさで天下一品。愛すべきダメ父の生態がわかる。
エンターブレイン 620円
2017.04.02(日)
文=三浦天紗子