今月のテーマ「物語は蜜で毒」
【MAN】
見えない文字を読み取る力が少年と少女の運命を変えた
少年は、紙の上に書かれつつある文字を読み取る能力を持っていた。少女はつまらない日常に絶望し、天使がいる「本当の世界」への扉を探していた。能力を通して少女の想像力に触れた少年は、言葉を駆使して「運命」の出会いをこしらえてしまう。恋なんて始まらなかった。少女が少年に抱く感情は、執着だ。少年の能力を知らない少女は、己の望む言葉を引き出そうと少年を強迫する。やがて取り返しのつかない事件が起こる。
だが、これは物語だ。物語とは、さまざまな人生のバリエーションを幻視するメディアだ。時間は巻き戻り、あの日あの時書かれなかった言葉から、ふたりの関係性が再起動する。一度、二度と。現実ではそんなことは起こらない。起こらないと物語を通して学ぶからこそ、「たった一度」の人生を大切にしたいと思うようになる。パラレルワールドの物語を描き続ける漫画家が、繰り返し突きつけてくるメッセージは、それだ。
『バベルの図書館』(全1巻) つばな
試験では常に学年1位の渡瀬量、美術部の相馬かなえ。400字の作文が一言一句同じだったことから、ふたりは急接近を果たす。偶然か運命かを確かめるため、自由意志で書いたはずの言葉は共に「天使の抜け道」。恐怖が色彩を変えて何度も押し寄せる。著者初の長篇作品。
太田出版 638円
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2014.11.03(月)
文=吉田大助