今月のテーマ「被災地と“ここ”」

【MAN】
あらゆる現場の一生懸命が「最前線」を支えている

 福島第一原子力発電所のことを、メディアは「フクイチ」と呼ぶが、現場の作業員や地元の人間は「いちえふ」と呼ぶ。同所で働いた経験をルポ漫画化した本作はド頭から、メディアと現実との違いを語る。こう書くとハードな印象を受けるかもしれないが、第1話なんて学習漫画のノリ。作業員達は普段どんなふうに仕事をしているか、絵で直観的に示し、言葉で丁寧にフォローしていく。そうすることで、いちえふを覆った恐怖のベールをはがしていく。悪魔祓いに何より有効なのは、知ることなのだから。

 現場の話も面白いが、休憩所職員として働いていた時の話も面白い。せっかく現場に来たのに「後方支援」に回されてしまったことを、主人公は物足りなく思う気持ちもあった。だが、退屈であれ汚れ仕事であれ、その現場で一生懸命に働くことが、巡り巡って「最前線」での成功に繫がるのだ。意外なほど、“ここ”で働く元気が湧いてきた。

『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(既刊1巻) 竜田一人

首都圏に暮らしていた主人公は、「高給と好奇心それにほんの少しは被災地の為という義俠心」から福島第一原子力発電所で働くことを決意する。だが、道のりは険しかった。やっと辿り着いたのは、7次下請けの会社だった……。新人賞受賞後、『週刊モーニング』にて連載中。
講談社 580円
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2014.07.03(木)
文=吉田大助

CREA 2014年7月号
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この記事の掲載号

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