【BL初心者は兼業作家から入るべし。】

 BLを読みたいが選ぶ決め手がわからない。そんなときはジャンルを横断して活躍する作家を読むのも手です。なぜなら、他ジャンル作品を読んで気に入れ ば、単純に横滑りするような感覚で抵抗なくBLに入れますし、BLと兼業で描けるということは腕がある証拠。優秀なストーリーテラーが多い。たとえば、今 市子さん。今さんの描くジャンルは大きく4つ。代表作で連載が100話を超した怪奇マンガ『百鬼夜行抄』、幻想中華ファンタジー『岸辺の唄』シリーズ、文 鳥観察エッセイ『文鳥様と私』シリーズ、そしてBLマンガ。超ロングセラーを抱えつつ秀逸なBLを数多く描いています。

パパが彼氏と再婚する!? 
子どものボクは右往左往

 中でもおすすめは家族を巻き込んだラブコメディ『大人の問題』。主人公は彼女持ちの平凡な大学生・原嶋直人。彼は物語の狂言回しも兼ねます。発端は直人が5歳のとき。両親が離婚するというので「どうして?」と聞くと「パパがゲイだから」と答えたママ。以来、直人の家には他人に言えない事情ができてしまった。それから15年後、今度はなんとパパが再婚宣言。相手は年下の海老悟郎という美青年。パパは彼を直人と元妻に紹介したいと言うのだが……直人の彼女も巻き込んで原嶋ファミリーは大騒ぎ。本作は古き良き時代のハリウッド映画の巨匠ビリー・ワイルダー監督の『お熱いのがお好き』や現代の巨匠アン・リー監督の『ウェディング・バンケット』とか、そんなきちんとラストにオチがつく、軽妙でウィットの利いた名画を彷彿とさせます。きっちり練り込まれた脚本は、BLというジャンルを超えた普遍的なおもしろさ。1巻ものの大傑作と断言します。

『大人の問題』 今市子

直人は彼女にパパ問題を隠し通せるか? それとも海老悟郎によろめくの? ママの心境はいかに? 噓が積み重なって起こる悲喜劇を描くシチュエーションコメディ。93年のデビュー以来、評価の高い作者の脚本力に唸らされる。読後感が最高。
芳文社 562円
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福田里香 (ふくだりか)
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Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2014.05.02(金)
文=福田里香

CREA 2014年5月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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