【BLの神髄は関係性萌えである。】

 BLはボーイズラブの略です。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。BLは少女マンガが発展する過程で、登場人物の関係性を突き詰めると、女と男より男同士のほうが更に萌えるという思考に辿り着き、そこから枝分かれしたジャンルなのです。BLというだけで食わず嫌いはもったいない。少女マンガの1ジャンルと思えばハードルも低いので、この連載で名作の宝庫であるBLマンガに入門してみてください。

寿限無が貧乏神に恋をした? 
落語の関係性を味わい尽くす

 初回はBLの神髄である「関係性萌え」をテーマにした秀良子さんの『年々彩々』です。本作は落語の名作「貧乏神」と誰もが知る「寿限無」が元ネタ。作者は天才的な閃きでこの2作のキャラの関係性なら恋仲に発展し得ると行間を妄想読みしました。

  「貧乏神」の貧乏神を小汚いじいさんから働き者の年上美人(男)へ、怠け者の余平を今でいう魅力的な“だめんず”へと主役2人を二次創作し、落語のオチのその先をマンガに紡ぎました。更に作品を超えて「寿限無」の寿限無と転職後の貧乏神を意外な形で出会わせたのです。まさか世を拗ねた寿限無と無口な神様の即かず離れずの関係性に萌え、一番の笑いどころ「寿限無、寿限無、五却の摺り切れ~(略)」という日本一長くてお目出度い名前のくだりで切ない涙を流し、2人の幸せを祈ることになろうとは。これぞ関係性マジック。秀さんは爆笑系落語を2 in 1し 、 200年に亘る恋のBL噺に仕立て上げ、そのうえ世話物風のオチまでつけました。なにこの読後のギリシア神話感。これはもうBL叙事詩と言っても過言ではない。

『年々彩々』 秀良子

名作落語「貧乏神」と「寿限無」を元ネタにキャラの関係性を突き詰めた傑作。落語を知らずとも充分おもしろいが、ネット上に落語が文章化されているのでどこを本歌取りしているか押さえるとより感動。ハマったら名人のCD購入&寄席へゴー。
祥伝社 650円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。マンガ関連著書は『まんがキッチン』(アスペクト)、『ゴロツキはいつも食卓を襲う』(太田出版)。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2014.03.02(日)
文=福田里香

CREA 2014年3月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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