今月のテーマ「煩悩」

【MAN】
男の煩悩と青春が詰まった爆笑の坊主ワールド

 美坊主がブームらしい。だが『ぶっせん』に登場するのは、その対極ともいえる汗くさーい感じの坊主たち。全寮制の仏教専門学校で、座禅、托鉢、荒行、精進料理と修行のような学園生活を送る。仏門にいるとはいえほとんど20歳前後の若男子。食べ盛りだし、女の子と仲良くもしたい。彼らを指導する雲信の目をかいくぐり、おのれのちっちゃな欲(お腹が空いたからコンビニに行きたい、クリスマスを女子と過ごしたい等々)を満たそうとしてドタバタに。

 一方、雲信がケチケチ経営に血道を上げるのは、寺を存続させたいという大義あってのこと。清濁併せ呑んでナンボの中間管理職みたいな苦悩には、同情さえしてしまう。

 つまるところ煩悩とは、「ほかの人よりちょっといい思いをしたい」という気持ちなのだと思うが、彼らの煩いのもとは、仲間思いのせいだったり、ひたむき過ぎるせいだったり。その人間くささが微笑ましく、彼らの煩悶を肯定したくなるのだ。

『ぶっせん』 三宅乱丈

檀家皆無の貧乏寺「仏物専寺(ぶつぶつせんじ)」。和尚の一番弟子・雲信は、授業料目当てに仏教専門学校を開く。50単位で「悟り」に到達、がうたい文句の「ぶっせん」で、素直すぎてただひとり煩悩とは無縁の主人公・正助や、大義を背負った雲信の活躍に、不思議と癒される。
太田出版(全3巻) 各952円
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2014.03.30(日)
文=三浦天紗子

CREA 2014年4月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

私はこの顔で生きていく

CREA 2014年4月号

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