【WOMAN】
性欲と嫉妬に振り回される女心が胸にずしっと来る
立派な坊主になるために妻帯しないと心に決めていながら、めちゃめちゃリビドーに振り回されている29歳の副住職・清玄。彼の悶々を軸に据えれば青年の煩悩マンガにも見えるのだが、このマンガの本旨は、ヒロイン節子の艱苦にあると思う。
救いを求め、清玄のいる祥願寺に住み込むことになった節子は、元マラソン日本代表。すべてを投げ打って走っていたのに、挫折した過去がある。だから、ライバルだった女子選手への嫉妬も、男性から抱きしめられた経験がないコンプレックスも、ものすごい。彼女の身体からは、ちょくちょく妬み虫が湧いて出る。
そんな中、清玄と小中高が一緒で、ストイックに仏の教えを学ぶ清徹が祥願寺に戻ってくる。タイプの違う二人の美坊主にはさまれて暮らすことになった節子が、惑わないわけがない。御しきれない感情の暴走に苦悩する姿を、身につまされずに傍観できる女性がいたら、ええ、それは悟りきって、もとい、枯れてます。
『お慕い申し上げます』 朔ユキ蔵
生への執着、色欲、嫉妬など登場人物たちの懊悩。そのテーマと並行し、お寺と檀家の関係や仏門界が現在晒されている危機的状況など実社会での問題も描き出す。ときどきはさまれる清玄の祖父・峰博和尚の言葉が深遠なお説教になっているなど、マジメな仏教マンガとしての側面も。
集英社(既刊5巻) 各562円
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Column
男と女のマンガ道
男と女の間には、深くて暗い川のごとき断絶が横たわる。その距離を埋めるための最高のツールが、実はマンガ。話題のマンガを読んで、互いを理解しよう!
2014.03.30(日)
文=三浦天紗子