一度そっくり捨てるつもりで
自分の美容を“ちゃぶ台返し”する

 そこで、一度やってしまって欲しいのが化粧品の“ちゃぶ台返し”。長い間にコンガラガッてきている自分の美容を、まさにちゃぶ台をひっくり返すように一度リセットするのだ。

 捨てるべきモノは、ドサドサ捨てる。使えるモノはキレイにする。ある種の再利用ができるモノは、一手間加えて再生する。もう関心のないモノは、一気に使い果たしてしまう。それでも余ったモノは、迷わず捨てる。そんなふうに、化粧品ワードローブの全てを見直し、一気にモノを減らすのがちゃぶ台返し。でもそれ徐々にやれば? と思うかもしれないが、家をリフォームするにも、家具があるままでは、とうてい上手くいかないから、自分の美容を一気に立て直すためには、一度洗いざらい整理しないと。

 「コップの水を捨てなさい」という言葉があるが、これは本来が、不倫や実りのない恋愛を続けている人に使われるアドバイス。一度コップの水を空っぽにしないと、新鮮で美味しい水は入れられない。澱んだ水に、いくら新しい水を注ぎ入れても、澱みは最後まで消えない。だから思い切ってコップの水を捨ててしまいましょうということなのだ。でないと、新しい恋は始まらないということなのだ。

 つまり思い切ってリセットすると、新鮮なキレイが改めて始まるということでもある。しかも、一度“ちゃぶ台返し”を体験すると、今までいかに無駄な使い方をしてきたか、今までいかに間違った買い方をしてきたかが、はっきりと見えてくる。つまり改めて化粧品を買い直せば、ワードローブをもっともっとスリムにできる。もっともっと少数精鋭の化粧品でキレイになれることを知るのだ。

 言い換えれば、自分を本当の意味でキレイにしてくれる化粧品がどんなものであるかが見えてくる。今までぼんやりしていた、あるいはゴタゴタしていた自分のすべき美容が、見えてくる。 そうそう、ポーチの中身も同様。できるならポーチそのものも新しいものに替えて。

 そしてもちろん、化粧品はもっとキレイに、もっと丁寧に、大切に使わなければという、これまた当たり前のことに気づくわけで、化粧品の使い方、向き合い方さえ変わるはずなのだ。

 また、さまざまに化粧品を整理するうちに、化粧品というものの真髄が見えてくるのかもしれない。今まで何となく怖かった“混ぜること”“ルールと違った使い方をすること”に挑んでみることになるわけで、だから化粧品というものが急に解ってもくる。

化粧品を丁寧に捨てるところまでが美容

 ちなみに化粧品の正しい捨て方は、言うまでもなく、中身と容器を完全に分別し、燃えるゴミと燃えないゴミに分けなければいけない。液体物もアルコールなどが含まれている場合は流しに流してはダメ。乳液、クリーム、オイルの類も新聞紙などに含ませて捨てるしかないわけで、確かに捨て方は一番面倒なのかもしれない。でもだからこそ、きちんと丁寧に捨てるところまでが美容。こっそりと間違った捨て方や、身勝手で乱暴な捨て方をすると、バチが当たるみたいに考えておきたいのだ。

 ドモホルンリンクルのCMにあったように、チューブを切り開いて、中のクリームを綿棒ですくい取るような丁寧な捨て方をすると、それだけで逆にキレイになれるような。化粧品ってそういうものなのだ。

 また、捨てずに人にあげたり、売ってしまえるほど、丁寧に使うことも含め、ある種のリサイクル、再利用することが、化粧品の整理の仕方としては理想的なわけで、それは冷蔵庫にあるありあわせのものでおいしいものを作るような、料理に近い発想。

 化粧品といかに付き合うかはそういう意味で人生の知恵に近いものなのだ。かつて『聡明な女は料理がうまい』というベストセラーがあったけれど、 実は化粧品の処理もこれと同じ、聡明な女ほど捨て方も上手い。

 もっと言うなら、化粧品の捨て方、整理の仕方が上手い人は本当の意味で美容が解っている人。だからどんどんキレイになれる。モノが減っても、キレイは増える。そういうものも全て含めて美容なのだから。

齋藤 薫 (さいとう かおる)
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストに。女性誌において多数のエッセイ連載を持つほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『“一生美人”力』(朝日新聞出版)、『なぜ、A型がいちばん美人なのか?』(マガジンハウス)など、著書多数。近著に『されど“男”は愛おしい』(講談社)がある。

Column

齋藤 薫 “風の時代”の美容学

美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍する、美容ジャーナリスト・齋藤薫が「今月注目する“アイテム”と“ブランド”」。

2017.03.29(水)
文=齋藤 薫
撮影=西原秀岳

CREA 2017年4月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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