●竹富島篇
夕刻から始まるドラマを記録する
次は日本。沖縄の八重山諸島のひとつ、竹富島。
この島は水牛や星砂の浜で有名で、石垣島から日帰りで訪れる観光客が大半だが、その良さは泊まってみないとわからない。それは石垣島へ向かう最終のフェリーが出たあと、夕刻から始まるドラマがあるからである。
西桟橋でみる夕陽が海上を真っ赤に染める景色から始まり、夕食を準備するおばあたちの声、夜になるとどこからともなく聞こえてくる、誰かが練習する三線の音色、満月の日には懐中電灯もいらないほど白く光る集落の道(集落の道はすべて白いサンゴでできているため、満月の夜は月の光がサンゴに反射して、特に明るいのである)。
ここではいつしか忘れてしまった遠い記憶がドラマのように蘇るのだ。人は昔、こうやって暮らしていたよね。いざこざも含め、人と人とのつながり方、自然との関わり方、お金以外の生き延びるための知恵など、人間の基本的な生活がある。
だから私はこの島にくると最初の2、3日は懐かしさに包まれながらのほほんと過ごし、最後の2、3日は自分の生活を深く反省して帰途に就く。
最初の写真は民宿松竹荘の入り口にいた猫。猫も人間にいじめられたことがないので、人を恐れずのんびりと暮らしている。相手への接し方でいくらでも世の中は良くなっていくのだなあ、と思う瞬間でもある。
ということで、他にも撮影秘話を含めて紹介したい国や場所が沢山あるのですが、今回はこの辺でお別れします。ぜひこれからも旅と写真を楽しんで、思い出に残るとっておきの一枚を大切にしてください。
私の駄文に2年間お付き合いいただき本当にありがとうございました。またどこかの空の下でお会いしましょう! Let's enjoy traveling with photos!
山口規子(やまぐち のりこ)
栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業後、文藝春秋写真部を経て独立。現在は女性ファッション誌や旅行誌を中心に活躍中。透明感のある独特な画面構成に定評がある。『イスタンブールの男』で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、『路上の芸人たち』で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。著書にひとつのホテルが出来上がるまでを記録したドキュメンタリー『メイキング・オブ・ザ・ペニンシュラ東京』(文藝春秋)、『奇跡のリゾート 星のや 竹富島』(河出書房新社)や東京お台場に等身大ガンダムが出来上がるまでを撮影した『Real-G 1/1scale GUNDAM Photographs』(集英社)などがある。また『ハワイアン・レイメイキング しあわせの花飾り』『家庭で作れるサルデーニャ料理』『他郷阿部家の暮らしとレシピ』など料理や暮らしに関する撮影書籍は多数。旅好き。猫好き。チョコレート好き。公益社団法人日本写真家協会会員。
Column
山口規子のMy Favorite Place 旅写真の楽しみ方
山口規子さんは、世界中を旅しながら、ジャンルを横断した素敵な写真を撮り続けるフォトグラファー。風景、人物、料理……、地球上のさまざまな場所でこれまで撮影してきた作品をサンプルとして使いながら、CREA WEB読者に旅写真のノウハウを分かりやすくお伝えします!
2017.03.26(日)
文・撮影=山口規子