シュルレアリスムの正当な継承者、金氏徹平の世界に浸る

 シュルレアリスムと聞けば、まずは時計の文字盤がぐにゃり曲がって大地に垂れたダリの絵や、紳士の頭部がなぜか林檎になったマグリットの作品などが思い浮かぶ。強烈かつ不思議なイメージは、一度見たら忘れられない。

 人の深層意識に働きかけて、現実を超えた何かを見ようというのが、彼らシュルレアリストの基本姿勢だった。20世紀前半に起こった美術潮流だから、今の感覚からすると少し時代がかった雰囲気が漂うし、少し難解に思われがちだけど、手法や考え方は今も有効なはず。現代を生きる表現者にも、その思想はしっかりと受け継がれている。

 シュルレアリスムの正当な継承者として、真っ先に名を挙げたいアーティストがここに。香川県・丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で個展を開催する金氏徹平、その人だ。

 絵画、写真、映像、立体、それらを複数組み合わせたコラージュやインスタレーション……。金氏が続々と生み出す作品はまことに多様で、既存のジャンルにまったく囚われない。用いる素材も多岐にわたっていて、プラスチック製の日用品やおもちゃのフィギュア、シール、印刷物の切り抜き……。日常で目にするものなら何だって使ってしまう。そうした見慣れたモノの数々を、意外な取り合わせと状況のもとで出合わせて、未知の存在にしてしまう。

 そんな流儀によって紡ぎ出される金氏作品は、いつだってカラフルで楽しげ。彼の手にかかれば、どれほどありふれたモノだって、息を吹き返して生き生きしてくる。それぞれの作品にどういう意味や脈絡があるのか、何を目指していたのかは、いくら目を凝らしてみても、正直わからないことのほうが多い。理屈で読み解こうとしても、虚しく空振りするばかりだ。

 でも、きっとそれでいい。これまでになかった美と驚きをつくり出しているのが彼の活動であって、既存のものさしで面白さを測ろうとしても無理というもの。そもそも、見ているだけで気分が沸き立つ作品ばかりなのだから、そんな心の高揚がその場で味わえればそれで充分。納得できる説明などなくたって、まったく構わないのだ。

 今展の会場は、天井高のある大空間が売り物。そこで大々的にさまざまな素材・手法によるインスタレーションが展開される。観る側は、金氏が生み出すオリジナルで不思議な世界に、どっぷり身を浸すことができる。展覧会タイトルを創案した小説家・長嶋有をはじめ、各界クリエイターとのコラボレーションが多数試みられているのも大きな楽しみだ。

『金氏徹平のメルカトル・メンブレン』
会場 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県・丸亀市)
会期 2016年7月17日(日)~11月6日(日)
料金 一般950円(税込)ほか
電話番号 0877-24-7755
URL http://www.mimoca.org/

2016.07.21(木)
文=山内宏泰

CREA 2016年8月号
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