伊藤若冲『鳥禽図』×川内倫子『無題』シリーズ〈AILA〉より

伊藤若冲《鳥禽図》江戸時代・18世紀 絹本著色 120.0×43.3cm 滋賀県立琵琶湖文化館 
川内倫子《無題》シリーズ〈AILA〉より 2004年 Cプリント 作家蔵 © Rinko Kawauchi

 街や電車内で赤ん坊の姿を見かけると、誰もが知らず微笑んでしまうものでしょう? あれはいったいどんな作用なのか。きっと「生命そのもの」が剝き出しでそこにあるのを感じて、ついうれしくなってしまうのだ。

 川内倫子の写真作品に触れるとき私たちは、赤ん坊との遭遇時と同じ感覚を味わいます。何かの卵、小さい草花、風船、机上のグラス、餌を求める鯉の大口、羽ばたく鳥……。無垢な光に照らされたこの世の断片に、強い生命感が溢れているのが見出せて、すべてをたまらなく愛おしく感じられるのがうれしい。

 なぜそう見えるのか。生きものを多く被写体にしていること。丸いかたちをはじめ単純な形態に要素を絞り込み、画面にリズムをもたらしていること。自然の造形への驚嘆と畏敬を率直に表していること……。

 いろんな理由が考えられますが、結局は撮り手たる川内倫子本人の、生を肯定する心持ちが強く反映されているということなのでしょう。

 そんな川内作品は、国立新美術館での『古典×現代2020―時空を超える日本のアート』に出展されます。古典と現在それぞれの作品を出逢わせて、その響き合いを楽しもうとの趣向で企画された展覧会です。

 では川内の写真はどんな古典と組み合わされるのか。奇抜な画想を緻密な描写で表現して大人気、絵師の伊藤若冲をはじめとする江戸時代の花鳥画です。

 ああなるほど、これは深く納得させられます。両者の作品に見られる「絵づくり」の手法は、ひじょうに近しいものがありますから。

 鳥をはじめ身近な生きものをよく画面に登場させるところから、余白を生かした画面構成、「神は細部に宿る」という言葉を証明せんというばかりに焦点を合わせたものを細密に描き切る意志まで、共通点はいくらでも見つかります。

 加えて言えば、川内写真には蜂や鳩の死骸をアップで撮ったりと意外に残酷な側面もあり、若冲絵画には細部へ分け入るあまり、対象を切り刻んでしまうような狂気が漂うこともある。

 すなわち「死」の予感を匂わせることで、いっそう「生」の儚さと尊さを強く表現している。そんなところまでが似通っているのです。

 川内と若冲の作品には、日本で古くから大切にされてきた心性がよく現れ出ていると思います。そう、「もののあはれ」と呼び習わされてきた感覚ですね。

 そうした日本の美の特質が、最もよく表れているのが両者の作品です。併せて観られる機会、ゆめ見逃すことのなきように。

「古典×現代2020─時空を超える日本のアート」

日本の古典作品と現代アートを対比し展示することで、日本美術の奥深さを再発見しようとの試み。組み合わせは「花鳥画×川内倫子」の他、「刀剣×鴻池朋子」「北斎×しりあがり寿」「仙厓×菅木志雄」「円空×棚田康司」「仏像×田根剛」「乾山×皆川明」「蕭白×横尾忠則」。

会場 国立新美術館(東京・六本木)
会期 ~2020年6月1日(月)【ただし新型コロナウイルスのため、2020年4月3日現在臨時休館中。開館案内は公式HPをご参照ください】
料金 一般1,700円(税込)ほか
※同時期開催の『未来と芸術展』チケットで観賞可
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
https://kotengendai.exhibit.jp/

2020.04.06(月)
文=山内宏泰

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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