食べた人は小布施をさらに好きになる
椀物は筍餅で、餅にした筍は、筍たる香りを広げながら出汁と溶け合い、ご飯に炊き込まれた山独活は、凛々しい歯応えでご飯と共鳴する。
「山独活ご飯」に添えられた、筍の佃煮も独活の梅煮も、しみじみとした幸せがある。
「山菜のてんぷら」や「筍の木の芽和え」も、植物の生き生きとした青い香りが、体を清めていく。
この店のために作ったという日本酒や、その酒のためにデザインされた瓶も美しく、宴を一層色っぽく盛り上げてくれる。
料理には、どこにもこれ見よがしな意思がない。季節と郷土への慎ましやかな愛が心を打つ。朴訥な贅沢に目を閉じる。
郷土に育つ旬の食材に敬意を払い、高級食材には走らず、客のことを思いやり、誠実に料理を作る。これこそが品であり、日本料理というものだと思う。
最近は日本料理でも、華美に飾り立てる料理屋が多いが、「小布施堂」の食事は実にまっとうで、なにより、食べた人が小布施をさらに好きになる、優しさに満ちている。
こういう食事に出会えるから、旅はやめられない。よし、今度は栗の季節に訪れよう。
<小布施市>
長野県の北東部に位置する観光地。晩年の葛飾北斎が逗留したことで知られ、市内には彼が描いた天井絵や、肉筆画を展示した「北斎館」がある。また、名産の栗を使った和菓子や、高品質のワインでも知られ、年々、観光地として人気が高まっている。
アクセス JR長野駅から長野電鉄に乗り換え、約34分で小布施駅。車の場合は東京から上信越自動車道「小布施スマートIC」まで約3時間。
小布施観光協会
URL http://www.obusekanko.jp/
マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。
Column
マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。
2016.05.12(木)
文・撮影=マッキー牧元