vol.08 小布施
宿泊客に限り、夕食をいただくことができる
小布施は、北信濃地域有数の観光地である。
「栗と北斎と花の街」として、歴史的建造物を生かした街並みは雰囲気が統一され、有名デザイナーが手がけたミニバスが走り、多くの農園も抱えている。
観光地というと、土産店や飲食店ののぼりなどが並んでいて、げんなりすることもあるのだが、それもない。
実に清々しい気分になれる街である。
大抵の方は泊まらずに観光して帰られるようだが、せっかくこんな素敵な街を訪れたのだから、もう少しゆっくりしたい。
栗菓子で有名な「小布施堂本店」が経営する宿、「枡一客殿」に宿泊して、「小布施堂本店」で夕食を楽しむのである。
「小布施堂本店」の食事は17時までだが、宿泊客に限り、夕食をいただくことができる(2週間前までに要予約)。
夕闇が落ちていく中、ゆったりと席が取られた空間で、秘めやかな食事をいただこう。
5月の、デザートに至るまで10皿で構成される和食のコースには、静かな喜びが漂い、小布施の地の香りが弾けていた。
最初の一皿、素麺と同じ寸に切られたアスパラは、歯の間で青い香りを滲ませ、「わらびと湯葉の浸し」は、そっと山の冷気を連れてくる。
杜氏たちの肴であったという、「松前漬け」や「鞍掛豆の浸し」は、愚直なうまさで酒を飲ませ、「花山椒の香り鍋」と題された筍と豚肉の花山椒煮は、野山の香りを撒き散らしながら、胸を弾ませる。
2016.05.12(木)
文・撮影=マッキー牧元