「お茶とか何か」「出さなきゃならないのにぃ」

「あらぁ」

 バタン。

「お客様が」

 バコッ。

「来ているのなら」

 バタン。

「お茶とか何か」

 バコッ。

「出さなきゃならないのにぃ」

 バタン。

 ガラガラガラッ!!

 不意に玄関の引き戸が開く音がしたと思うと、その声の主の気配はプツッと途切れたそうです。

「……だ、誰、今の?」

「俺が知るわけがないだろ……!!」

「い、一旦帰ろう!! ト、トラックの荷物もパンパンだしね!!」

 先輩の掛け声で一同は奥の部屋から足早に開けっ放しになっていた玄関の外に出たのですが、仕事仲間の1人だったBさんがモタモタして出てきませんでした。

「おい、何やってんだ、早くしろ!」

「ない」

「は?」

「俺の靴がない……履いていかれたかもしれない」

 Sさんは靴下姿のBさんの肩を掴むと、強引にトラックに乗せてその家を後にしました。

 結局、その日の仕事はそのまま終わりになり、Sさんはその日を境にバイトをばっくれたのだそうです。

(後篇に続く)

次の記事に続く 赤いスニーカーを履いて出ていった女は何を手に入れようと...