「これは“お茶を出されちゃった奴の話”」

 Fさんの怪談収集は完全なる趣味で、インターネットやイベントでそれを発表するようなことは端から頭にありませんでした。

 大学生時代に友人らのツテを辿って、「怖い話大会」という名目で飲み会をセッティングしてまで“Sさん”というOBの男性と会ったのも、単にどんな怖い体験をしたのだろう、という純粋な好奇心からだったそうです。

 当日、友人の家にビールやおつまみを持って現れた噂のSさんの第一印象は、有り体に言えば“不良”だな、というものでした。

 こういうタイプは、本来なら行ってはいけない場所にもガンガン突き進んでいくので、Fさんも『今日は実りのある話が聞けそうだ』とワクワクしていました。

「じゃあ、いよいよ聞いちゃいますか! Sくんの怖い話~!」

 飲み会も盛り上がった頃、友人のフリに応えるようにSさんの話が始まりました。

「あんまりハードルあげんなって。なんというか、これは“お茶を出されちゃった奴の話”なんだよ」

 Sさんが現役の大学生だった頃、彼は大学生活の合間に“家から荷物を運び出すバイト”をしていたのだそうです。

 なんだか靄のかかったような言い回しが気になって色々探りを入れてみたFさんでしたが、どうやら引越し業者とは違うようでした。

「で、ある日の仕事先がさ、まあ、よくある2階建ての郊外の一軒家だったんだ――」

次のページ 誰かが勢いよく襖を開けたような音