どこか開放感を感じながら……

「じゃあ、ちょっと行ってくるね。日曜の夜には帰れると思うから」

「はーい」

「たまには1人でゆっくり遊んだら?」

「遊ぶって……結菜がいるから無理だよ~」

「あー、そっか。まあ、急いで戻るよ」

 その週の金曜日の夜。Hさんは仕事を早退して身支度を済ませると、実家まで車を走らせました。

 実家はさほど遠くない距離でしたが、不意にやってきた妻も子もいない束の間の小旅行のように感じられ、正直開放的な気持ちになったそうです。

 タイヤに押しつぶされる砂利道の音。

 2時間ほど車を走らせた後、車のヘッドライトは父が小さい頃から入れ込んでいた庭木たちと、2階建ての和風建築の姿を静かな暗闇に浮かび上がらせました。

「ただいま~」

 庭先の小さな駐車スペースに車を停め、蔦模様の装飾が施された古びたドアを押し開けると、甘い線香のような匂いがしました。

「あら、早いわね、ご苦労様~」

 リビングからパタパタと駆け寄ってきた母はいつになく明るい声で出迎えてくれました。

 その後ろからゆっくりと顔を出す父。

「渋滞はなかったか?」

「意外と空いてたよ。というか、なんか、家の中が片づいてるね」

「結構、処分したんだ。古いものは置いといても仕方がないからな」

「ご飯は食べてきたの?」

「いや、まだ」

「生姜焼きなら作れるけど、食べる?」

「あ、いいね。食べるよ」

 母の作る晩ご飯が食卓に並ぶのを見ていると、昔は窮屈に感じていた実家がとても風通しの良い環境に思え、気分が良くなったそうです。

(後篇に続く)

次の記事に続く 「長すぎる…」面識のない親族の葬式に突如として駆り出さ...

Column

禍話

2016年からライブ配信サービス「TwitCasting」で放送されている怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」。北九州で書店員をしている語り手のかぁなっきさんと、その後輩であり映画ライターとして活躍中の加藤よしきさんの織りなす珠玉の怪談たちは、一度聞いたら記憶に焼き付いてしまう不気味なものばかりです。