『喪服はこっちで用意しているから』

「そんなこと言っているから見つからないのよ~。え? いいから、お父さん。静かにしていて。あの、ほら近いうちに一度こっちきて話しましょうよ、ね」

『あいつに喪服はこっちで用意しているから、って言っとけよ』

 スマホの向こうから聞こえた父の声。

「ねえ、今週末とかどう?」

「え、急だなぁ。行けないこともないけど泊まりになるだろうし、結菜もいるしなぁ……」

「あなただけでもいいのよ。それにほら、色々とマリちゃんいない方が進む話もあるじゃない」

 冗談めかして言う母の声が漏れ聞こえてやしないかと、思わず身をよじったHさん。

 妻がこちらを見ていました。

 流しっぱなしのテレビの光を背に受け、黙ってこちらを見つめている妻。彼女の目にHさんは微かな苛立ちを覚えたそうです。

「まあ、確かにそうだね。前向きに考えておくよ! じゃあ、切るよ。今ご飯食べようとしてたところだったからさ~。はーい、はい、じゃあね、はい」

 通話を切ってスマホを置き、ため息を漏らしたHさん。

「どうしたの?」

「いや、なんか……急に帰ってこいって」

「お義母さんが?」

「うん」

「ふうん」

 妻はそう言うと視線を前に戻し、テレビを見ずにスマホをいじり始めました。

 ロールキャベツの湯気はいつしか消えており、ビールも少しぬるくなっていたそうです。

「……なあ、あっため直してくれる?」

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