家庭事情を探るたわいもない電話

 これが当たり前――そう割り切って過ごしていたHさんの目を開かせたのは妻でした。

 彼女と結婚して家を出るとき、Hさんは「もうこの家には戻らないかも」と思ったそうですが、奇妙なもので自立した環境が手に入った今は、両親に対する思いが少し変化してきた感覚もありました。

『家庭のことはなるべく私たちで考えたいから』

 妻はHさんのそうした変化にいち早く気が付き、こう言ってくることが増えました。

 特に子どもができてからはその頻度も増え、結果的に両親には定期的にこちらから電話をかけ、帰省のタイミングなどを図るようになっていったそうです。

「誰からー?」

「母さん」

 スマホを手に取り、妻に若干申し訳なさそうな視線を送ると、妻から目を背けるように体をよじってスマホを耳に当てました。

 無表情だった妻はHさんの背中を見ながらニコッと笑うと、テレビ前のソファに歩いていきました。

「それで、結菜の幼稚園は決まったの?」

 母からの電話はいつもと同じ、こちらの家庭事情を探るたわいもないものでした。

「ほどほどにしなさいってマリちゃんに言っておきなさいよぉ。あんまりこだわりすぎて見つからなかったら大変なんだから」

「ああ、うん」

「私たちの方でも探して色々目星付けているから、今度教えるわね」

「いいよ。別にそこまで」

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