鉄道工場の跡地を利用した台湾最大の鉄道博物館

 台北で大人にも子どもにも人気のスポットといえば、7月31日に開館した「國家鐵道博物館」が挙げられます。

 ここは、日本統治時代の1935(昭和10)年に建てられた「台北鐵道工場」の跡地を活用した施設で、豊富な鉄道資料のほか、多数の機関車や客車が展示されています。週末には動態保存された昔懐かしいディーゼルカーの乗車体験も楽しめる、誰もがワクワクする魅惑のスポットとなっています。

 場所は、台北101がある信義新都心に近い一等地。商業価値の高い土地でありながら、文化的資産、産業遺産の観点から、保存と整備が進められてきました。

 工場機能は2013年に郊外に移転しましたが、2015年に敷地のすべてを国家が管理する史跡となりました。そして、2016年には博物館として再利用することが決定しました。

 こうした一連の動きには鉄道や郷土文化を愛する人々の熱意や後押しがあったのはもちろんですが、政府や行政担当者の英断によるところが大きいと言われ、評価されています。

 17ヘクタールという広大な敷地には、工場の建物がほぼそのままの形で残されています。現在は第1期エリアとしてディーゼル機関車工場、工場事務所、従業員用大浴場など6つの建物が公開中。今後は第2期、第3期と整備されていく予定です。

 見どころの一つは、正面入り口の左手に位置する職員用の大浴場。中央にドーム形の高い天井をもつアール・デコの建築で、浴室両側には大きな半円形の美しい窓が見られます。丸い形の湯船は2つあり、北側の湯船からは湯気が出てくるという細かな演出もあって、見る者を飽きさせません。また、棚にはかつての職員の持ち物などが置かれ、往時の様子がリアルに再現されています。

 圧巻なのは、入り口の右手にある6600平方メートルを誇るディーゼル機関車工場エリア。ここは1962年に操業を開始した工場で、各種車両のメンテナンスが行われていました。

 機関車の部品が展示されているほか、ディーゼル機関車のエンジンカバーをつり上げ、スライド式大型モニターを組み合わせて内部構造を紹介するというユニークな展示もあります。機械やモーターの動作音をアレンジした楽曲とともに、移動モニターが内部の様子や動力の仕組みを映し出します。鉄道に詳しくない人でも、直感的にイメージできる仕掛けが好評です。

 ここには、製糖工場で使われていた軌間762ミリの小さな蒸気機関車や、「藍皮車」という愛称で親しまれた空調なしの旧型客車など、全24両が静態保存されています。

 一部の車両は内部の見学も可能。そして、鉄道ファンにとって見逃せない存在なのが、JR東日本から譲渡された583系電車の中間車2両。世界でも類を見ない「昼夜兼用車両」です。

 なお、博物館の大部分は無料ですが、このディーゼル機関車工場のエリアのみ有料(100元)です。

 また、週末には旧式のディーゼルカーの乗車体験というアトラクションもあります。年季の入った緑色のシートや扇風機、手動で開閉する窓など、旅情あふれる風情を味わえます。

 走行距離は片道約400メートルですが、まるで遠くへ旅をしているかのような気分になります。年齢や性別を問わず人気があるので、事前にオンライン予約することをおすすめします。午後のほうが空いているそうなので、予約していない場合は午後の時間を狙ってみてください。

 そのほか、事務所だった建物は資料展示スペースになっています。日本統治時代から戦後に至るまで、映画や文学、小説、歌謡、絵画などにおいて、鉄道がどのように表現されてきたかが紹介されています。

 鉄道が単なる移動手段ではなく、文化的側面をもつことがよくわかる展示内容で、鉄道に関する人々の記憶が集められています。

 かつての集会場と職員食堂があった「大禮堂」には、鉄道グッズと軽食を販売するコーナーがあります。鉄道に関する書籍や絵本、記念カード、キーホルダー、メモ帳、クリアファイル、しおり、マグカップなど、バラエティに富んだグッズが揃っていますので、観覧の際にはぜひチェックを。

 ちなみに食堂には、マンガによるパネル説明とともに調理場の様子が再現されています。こちらもリアルな作りで、一見の価値ありです。

 なお、2025年10月31日までの期間限定で、組み立て工場も公開されています。間に合う方はぜひ急いで出かけてみてください。

 鉄道博物館の南側には、タバコ工場跡地を再利用したクリエイティブパーク「松山文創園區」もありますので、ぜひあわせて訪れてみましょう。台湾の人々がいかに歴史や文化を大切にしているかがわかり、いつもとはちょっぴり異なる視点から台北という都市を眺めることができます。館内はとにかく広いので、時間に余裕をもって訪れましょう。

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