台湾文化を象徴する存在! 鄭惠中先生の日常着

 台湾だけでなく、海外の文化人や芸術家たちにも愛されている「鄭惠中布衣工作室」のリラックスウェア。日本でも雑誌や書籍で取り上げられ、「ヂェン先生の日常着」という愛称で親しまれています。

 今回は台北市の隣、新北市中和にある工房を訪問。40年にわたり天然素材のウェアを作り続けている鄭惠中先生に、その思いと現在の夢について語ってもらいました。

 工房は昔ながらの集合住宅が並ぶ路地に位置し、風格のある門構えが目印です。門をくぐると庭に流れる水の音が聞こえ、まるでどこか遠い山里の修行場を訪れたかのような気分になります。

 鄭先生のキャリアは紡績メーカーからスタート。10年ほど働く中で、化学繊維の服が大量生産、大量消費されていく現実を目の当たりにし、天然素材の服作りに目覚めていきます。台湾原住民族の集落をよく訪れていたこともあり、彼らの伝統衣装からもインスピレーションを得たといいます。

 こうして生まれた綿麻素材の日常着は、細かい皺ができにくく、風通しも良いので、台湾や日本など湿度の高い気候に合います。デザインは40年間変わらず、男女兼用で着られるものも多数あります。全体的にゆったりとしたデザインなので、着心地は抜群。どんな体格の人にもフィットします。

 また、カラーバリエーションの豊富さも特色の一つ。たとえ同じ黄色でも、濃いものから淡いものまで微妙に異なる色合いとなっています。

 草木染めは色落ちしやすく、コストが高いといった問題があるため、ここでは無毒の化学染料を使用。同じ染浴を何度も繰り返し使い、これ以上染められないという限界に達してから廃棄するため、環境にも影響を及ぼしません。

 その生産過程はとてもユニークです。近所に暮らす女性たちが自宅で縫製し、できあがったら取りに行くという仕組み。結婚や出産、介護などでキャリアが中断してしまった人も働き続けられるようになっています。雇い主にも作り手にも理想的な関係であり、鄭先生のウェアにぬくもりが感じられる理由はここにもあるのかもしれません。

 鄭先生によれば、40歳以降は単に服飾品を販売するだけでなく、教育機関や宗教団体、文化団体、台湾原住民族のパフォーマンス団体など、ジャンルを超えてさまざまな人たちと積極的にコラボレーションしてきたとのこと。

 1つ事例を挙げるならば、1999年の台湾中部大地震で大きな被害を受けた南投県の鹿谷という村にある内湖小学校との取り組み。ここは台湾を代表する凍頂烏龍茶の産地であり、茶農家の子弟が多く通います。学校では茶芸と台湾の伝統楽器・南管を学ぶ授業があり、鄭先生の服を着た生徒たちが茶会や演奏会を催しています。

 今夏には静岡の茶農家とも文化交流をしたとのこと。こうした郷土文化の伝承、発展に深く関わることが鄭先生自身の夢の一つでもあるそうです。

 なお、工房では内湖小学校の茶葉も販売しており、子どもたちの将来的な発展を支え続けています。

 このほか、新たに取り組んでいるのは「台湾産の天然素材」を用いること。台湾南部で農業廃棄物として捨てられたパイナップルやバナナの繊維を原料に活用できないか、試行錯誤を続けています。すでに少しずつ混ぜて使っていますが、今後はさらにその比率を増やしていきたいとのこと。

 台湾には元々、花蓮県に暮らすクヴァラン族がバナナ繊維を用いていた歴史があり、こうした台湾古来の文化が失われないようにしていきたいという熱い思いがあるそうです。

 コスト面では高くなりますが、地場産業を支えられるだけでなく、海外から原料を仕入れるよりも輸送に伴う二酸化炭素の排出量を減らせるので、温暖化対策にも貢献できるとのこと。期待は高まります。

 数々のストーリーが詰まった日常着は、ぜひ自分や家族のお土産にしたいところ。工房では2、3階に商品棚があり、試着してから購入することができます。

次のページ 冬にも旅にも頼れる、使い勝手の良いボトムスをピックアップ