操縦席がそのまま残されたスイートルーム
ストックホルムに来たのはこの客室に泊まるためだった。2002年まで現役で飛んでいたジャンボジェット機の、2階部分すべてがひとつの客室になっている。ベッドルームとラウンジ、そしてベランダが「コックピットスイート」滞在ゲストのプライベートスペースなのだ。
チェックインの際に、オレンジのストラップ付きのカギを渡された。これは「コックピットスイート」だけの特別なカギ。ほかの客室はシンプルなカードキーなのだ。キーを受け取ったら前ページの写真の螺旋階段を上へ。
ドアを開けると、右と左にさらに扉がある。左側のドアの横には、「ファーストクラスラウンジ」と書いてある。これは、あながち嘘ではない。空を飛んでいたときにはファーストクラスがあった場所なのだから。中に入ると、当時使われていた革張りのイスが7脚並んでいる。手前にはバーカウンターが当時のままで、ワゴンを収納してあったキャビネットや収納棚が残されている。
階段を上って右側の部屋がベッドルームだ。そこには、なんと、操縦席(コックピット)がそのまま残されているのだ。計器類は外されていて、一部には写真が貼ってあるが、本物だから操縦桿は動かすこともできる。
操縦桿のすぐ手前にはベッドがふたつ並んでいて、それらは電動でリクライニングチェアにもなり、狭いながらも工夫を凝らした造りだ。室内には、この機内でもっとも大きなバスルームがあり、洗面台とトイレ、シャワーがある。
右:バスルーム側からベッドルーム全体を見るとこんな感じ。ワイドレンズなので画面が少しゆがんでいるけれど、左端にあるのがベッドルームの入り口。
また、「ファーストクラスラウンジ」とベッドルームの間のドアを開けるとベランダに出ることができる。ここも「コックピットスイート」滞在ゲスト専用。プラスチック製のイスとテーブルが置かれていて、「ジャンボステイ」の中で、もっとも見晴らしがいい場所となっている。
朝食の時、ニューヨークからやってきたという5歳くらいの小さな女の子が私に話しかけてきた。「ねえねえ、あなたはコックピットスイートに泊まってるの?」と。イエスと答えると、彼女は母親に向かって「ママ、私、コックピットスイートに泊まっているレディに会ったわ!」と嬉しそう。「その階段を上っていくのよね? ここの真上にあるの??」などと、矢継ぎ早に質問されてしまった(笑)。
「コックピットスイート」は、子供たちにとっては憬れの客室のようだった。いえいえ、子供たちだけではない。私の後にチェックインした30歳前後のスウェーデン人女性2人も、ほんとうに嬉しそうだった。大人も子供も夢中にさせる魅力的な客室だ。
2015.08.25(火)
文・撮影=たかせ藍沙