【BLでは身分違いの恋は見守れ。】
「身分違いの恋」は古今東西、恋愛マンガの鉄板設定。理由は、恋人たちの間に立ちはだかる障害の壁が高くて多いほど、ドラマチックな展開になり、恋が成就した暁には、途方もなくロマンチックな気分に浸れるからです。少女マンガでは男女間の恋として描かれるのが一般的ですが、その際、読者はヒロインに感情移入し、世界の中心で恋愛を叫ぶような陶酔にどっぷり浸れます。
一方、BL作品の「身分違いの恋」の場合、読者の立ち位置は「世界の中心で恋愛を叫ぶ二人を見守るポジション」を取ります。あなたはまだ気がついていないだけで、じつはこの“読み位置”のほうがよりしっくり物語を味わえるかもしれませんよ?
身分のどんでん返しあり!? 青年華族×年上教育係。
BLで「身分違いの恋」を堪能するなら、日高ショーコさんの『憂鬱な朝』がおすすめ。
舞台は、華族制度が存在する頃の日本。父の死後、10歳で子爵家当主を継いだ久世暁人は、教育係を務めるという美貌の家令・桂木智之に引き合わされる。彼は21歳の若さで、社交界を裏から操る策士だ。暁人は子どもながらに、桂木に強く惹かれてしまう。しかし、桂木は久世家の爵位を上げることと蓄財には奔走するが、なぜか暁人には常に冷淡な態度を押し通す。本当に欲しいのは桂木の愛情なのに……。月日を経て19歳になった暁人は、心が通じない桂木を取引と称して力ずくで抱いてしまい、やがて二人の関係に変化が起こる。
明けない夜はないけれど、主人と家令という身分差、目的と行動がすれ違う悲劇、男同士という三重の障害を乗り越えて、二人に憂鬱じゃない朝が訪れますように、と見守りながら読む快楽。これは大河BLロマンです。
『憂鬱な朝』(既刊5巻) 日高ショーコ
「あなたが成人するまで、すべての権限は私にある」。特権階級の檻にとらわれ、時代の波に翻弄される若き子爵と怜悧な家令の恋。話は桂木の出生の秘密に及び、佳境へ。大人になった暁人の大礼服姿や舞踏会など麗しい明治の風物も読みどころ。
徳間書店 各571~680円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。新刊『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。
Column
BLマンガ基礎講座
BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!
2015.03.06(金)
文=福田里香