【BLは三角関係に発見がある。】

 人間は「一人」。いつか愛する他者と「二人」になりたいと夢見る動物だから、恋のライバル「第三者」が間に割って入る展開へ常に興味を惹かれます。三角関係の恋愛話がおもしろいのは、1、2、3というシンプルな素数で構成されているからだと思います。「わかりやすく割り切れない」から必ず恋愛敗者の心が砕け散るので、他人の不幸という蜜と恋愛成就の達成感が同時に味わえます。読むことで読者自身の辛い三角関係体験を癒したい、または対処法を学びたいという気持ちもあるでしょう。絶対に安全な場所から他人の三角関係を観賞するという快楽は、確かに物語世界に存在します。

男と女が一人の男を奪い合う三角関係マンガの進化形

 水城せとなさんの『窮鼠はチーズの夢を見る』は、三角関係マンガの進化形。なんと本作では男と女が一人の優柔不断男を奪い合います。サラリーマンで妻帯者の大伴恭一は、7年ぶりに大学の後輩・今ヶ瀬渉に再会しますが、じつは彼は興信所の調査員でした。偶然ではなく恭一の妻・知佳子から浮気調査を依頼されて近づいたのです。しかし長年にわたり恭一への恋情を募らせていたゲイの今ヶ瀬は、不倫の事実を隠蔽する代償として「貴方のカラダが欲しい」と迫り、二人はついに関係を持つことに。表面上はかわいい系の妻と粘着質で真性ゲイの後輩が、異性愛者ながらじつは性に揺らぎを抱える恭一を巡り、究極の心理戦を繰り広げる展開はまさにザ・恋愛で名言の宝庫。局面の打開策も全員が全員ズルさ満載で、展開が全く予想不可能。本作は純然たるBLとは言い切れないリアルな設定が魅力で、現実世界と地続きだからむしろBL初心者は読みやすいと思います。

『窮鼠はチーズの夢を見る』(全1巻) 水城せとな

大伴恭一が、大学の後輩・今ヶ瀬渉に再会したことから、妻を巻き込んだ男二人の苦しい恋愛が始まる。この三者の誰に感情移入するかはあなた次第。全員ズルくて愛おしい。1巻で一応完結だが、最終決着は続篇『俎上の鯉は二度跳ねる』で。
小学館 400円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。新刊『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2015.01.05(月)
文=福田里香

CREA 2015年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

台湾でできること。

CREA 2015年1月号

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台湾でできること。

定価780円