【BLも双葉より芳し。】

 栴檀は双葉より芳しの意味は「栴檀(香木の白檀)は発芽から香気がするように、才能ある人物は最初から目立って優れている」です。これはしばしばマンガ家にも当てはまる。また、好きなジャンルを極めようとする場合、個人の好き嫌いにかかわらず、まずその分野でエポックメイキングな作品を読むのが早わかりのコツ。なぜなら、ジャンルの歴史を俯瞰できるからです。

年下攻×年上美人受の決定版。巨匠の初単行本は必読です!

 BLマンガというジャンルでこの2つの要件を満たすのは、よしながふみさんとそのデビュー作『月とサンダル』(1994)。個人的な見解ですが、今後少女マンガを10、25、50年と長い時間軸で語るとき、よしながさんは必ず年表入りする重要な作家。コミケに出店して二次創作マンガで一時代を築き、オリジナルBLマンガでデビュー。その後少女マンガで『大奥』、青年マンガで『きのう何食べた?』を大ヒットさせた経歴は他に比類がない。中でも本作は、作者のすべてが詰まった2巻物の傑作(2巻は同人誌をまとめた後日談で2000年発売)。前半はゲイを自覚する男子高校生・小林が、楚々とした美人の新任教師・井田(男)に片思いし、彼の下宿にご飯を作りにいってアピールするが……という恋の顚末が描かれる。後半は小林が冷たい美貌の先輩に惹かれる過程がメイン。成績優秀で性格が悪い“ジャイアン”こと東洋は、井田先生とは正反対のタイプ。東洋が大型犬のように素直でおおらかな小林にほだされる展開は何度読んでも切ない。よしながさんは、当時ポピュラーではなかった「年下攻」というパターンの完成形をいきなりデビュー作で見せつけた。まさに栴檀は双葉より芳し。

『月とサンダル』(全2巻) よしながふみ

いまや定番化した人気のカップリング「もふっとした大型犬的な年下男子攻×美人の年上男子受」という黄金パターンの完成形。しかも攻が受を口説くのにご飯を作る展開って、まさに未来のよしなが作品の萌芽以外の何物でもない。これは芳しい。
芳文社 各562円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。新刊『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2014.12.03(水)
文=福田里香

CREA 2014年12月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

贈り物バイブル2014

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おいしいものからとっておきの名品まで
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定価780円