【BLは定番設定こそ新鮮だ。】
物語には「原形」があります。たとえば、平凡な男子の家に宇宙人のカミナリ娘が押しかけるギャグマンガ『うる星やつら』の原形は、民話『羽衣伝説』や『鶴女房』。“うる星”の大ヒット後は、これを「原形」とした作品が散見される。「原形」は、時代にマッチしたアレンジを施すと、何度でも蘇り「定番」として人の心に刺さるのです。
同級生の初恋物語は永遠。
レモンソーダ味の恋を読む
少女マンガで千回は読んだ超ド定番設定に「思いがけず目と目が合って、初恋に落ちる」「お互いに好意を持つ恋人未満の2人の間に、強力なライバルが登場」……という展開がありますが、これらをBLマンガに落とし込んだのが、中村明日美子さんの『同級生』です。
もともとはエロティックで耽美な作風を持つ明日美子さんがその作風を封印し、「バンド少年×優等生の初恋物で、渋い大人の先生が恋のライバル」という正統で正調なラブストーリーを描いてみせたのです。BLも昨今エロがエスカレート傾向ですが、本作は単行本1巻で淡いレモンソーダのキス止まり。彼女の初期作を知る読者をいい意味で裏切り、驚愕させました。
私たち読者はなにも珍奇で奇抜なものが読みたいわけではないのです。音楽につい何度も繰り返しずっと聴いていたいメロディがあるように、何度でも繰り返し読みたい物語があります。
他ジャンルでは風化と感じる物語も、BLという舞台に移植してアレンジすると、むしろ輝きを増すことも多いのです。もちろん、『同級生』は大ヒットし、その後ファンの熱望に応える形で『卒業生－冬－』『卒業生－春－』『空と原』『O.B.1』『O.B.2』と5作にも及ぶ続篇が描かれています。
『同級生』(他シリーズ5作) 中村明日美子
バンド少年・草壁光と、優等生だけど音痴なメガネ男子・佐条利人が合唱祭を前にひょんなことから秘密練習することに。なんとなくお互いが気になる2人の前に、無精ヒゲの音楽教師・原先生がちょっかいをかけてきて……。青春BLの決定版。
茜新社 619円
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福田里香 (ふくだりか)
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Column
BLマンガ基礎講座
BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない！
2014.09.04(木)
文＝福田里香
CREA 2014年9月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
この記事の掲載号
CREA 2014年9月号
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おいしい読書
定価780円
