【BLはジェンダーSFである。】
ジェンダーの定義は「生物学的性差(雌雄の別)、もしくは、生物学的性差と区別した、社会的・文化的につくられる性別、性差のこと」です。この定義をマンガの中で一番テーマに反映しているのが、BLじゃないかと思う。BLは70~80年代に耽美、ジュネと呼ばれた少女マンガの一ジャンルから、90年代に枝分かれした作品群です。現代日本が舞台で、ごく平凡な男子が主人公なのに「世間に非難されることなく男子ふたりがラブラブ」「悩むでもなく男子校で同性カップルが祝福されて多数生まれる」といった設定がごく自然に読み手に受け入れられたとき、これはある種のSFだと感じました。BLマンガ、それはジェンダーの揺らぎを描いた、一種のパラレルワールドです。
人間は繁殖こそが最重要!?
男子が妊娠出産する世界
その思考実験をさらに発展させたのが、寿たらこさんの『SEX PISTOLS』。これも現代日本が舞台ですが、人間は2種類の種属「人類(猿人=私たち)」と「斑類(まだらるい)」に分かれている世界。
斑類は人魚(マーメイド)、熊樫(くまかし)、蛟(みずち)、猫又、犬神人(いぬじにん)にんなどの魂元を持ち、独自のヒエラルキーを形成する種属。希少で力が強大な斑類ほど繁殖能力が低く、一族繁栄のために恋愛抜きの繁殖結婚が当たり前。
主人公のノリ夫はごく平凡な猿人の高校生男子。しかし祖先に斑類がいたため「先祖返り」して突如、斑類となったことから、優秀な繁殖相手を探していた学校でも有名なイケメンセレブの斑目国政(猫又/男)に求愛される。
なんと斑類界では繁殖のため、男も妊娠できるという。一目惚れで、初恋で、身分違いの恋と鉄板設定満載なラブコメなのに、深く考えさせられるジェンダーSFの傑作。
『SEX PISTOLS』(既刊8巻) 寿たらこ
猫又の魂元を持ち、名門一家を背負う国政と庶民派の「先祖返り」ノリ夫は価値観の違いを乗り越え、愛に辿り着くのか? 蛟×メガネ男子の委員長の恋、熊樫バカップル、父母世代の恋と出産篇を経て、ついにヒエラルキーの頂点・人魚の謎に迫る。
リブレ出版 各590~619円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。おまけレシピも収録した『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。描き下ろしマンガは雲田はるこさん!
Column
BLマンガ基礎講座
BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!
2014.09.21(日)
文=福田里香