【BLは職業選択に自由がある。】
恋愛をテーマにした少女マンガは、読者がヒロインに同化して理想の男と恋に落ち、自分が主体となって恋の駆け引きを楽しむ体感型マンガです。対してBLマンガの読者の目線は雲の上。BLは主人公カップルから距離を置き、ふたりの関係性を愛でて鑑賞することを楽しむ観察型マンガと言えます。私＝主人公じゃない分「こんな男じゃ将来不安、このスペックじゃ結婚できない」といった主観バイアスがかかりにくいため、少女マンガに比べ、主人公カップルに多彩な仕事を許容します。小説家の三浦しをんさんが自身のエッセイで、BLは一種の仕事マンガと書いたのは慧眼です。
黒社会から真面目な社会人、高校生の恋愛がこの1冊に！
ヨネダコウさんの『NightS』は職業を味わう短篇集。まず前菜は就業前の男子高校生を描いた「感情スペクトル」。就職未経験者の青い恋で舌慣らししたら「リプライ」へ。自動車メーカーを舞台に、花形営業マンと無愛想な整備士の恋を描く。田んぼにハマったお得意様の車を引き上げる作業で、ふたりの距離がぐっと縮まる展開は職業マンガの真骨頂。そして主菜は表題作「NightS」。舞台は黒社会。まだ年若くヤンチャな印象が残る一匹狼の運び屋・唐島真人は、真和会若頭補佐を名乗る穂積マサキにヤクの運搬を依頼される。どうやらお互いに秘密があり、恋と非合法な仕事の間で駆け引きし合って化かし合う。是非この読み順で、男の仕事事情を堪能してください。
「感情スペクトル」「リプライ」が気に入ったら、転職オフィスラブ『どうしても触れたくない』を、「NightS」が好きならさらにダークなヤクザ物『囀る鳥は羽ばたかない』へ、スライドして読むのもおすすめ。
『NightS』(全1巻) ヨネダコウ
特に表題作の“仕事”に注目。ラストにはあっと驚く大どんでん返しが待っている。唐島真人(運び屋)×穂積マサキ(若頭補佐)の年の差カップルが、惚れて探って、騙し騙され。黒社会の駆け引きと大人の恋の心理戦に胸がキュンキュンします。
リブレ出版 686円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。新刊『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。
Column
BLマンガ基礎講座
BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない！
2015.02.02(月)
文＝福田里香
CREA 2015年2月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
この記事の掲載号
CREA 2015年2月号
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