やわらかヒレかつに大根おろしがジュワジュワ

 ヒレかつは縦半分に切られているだけ。お姉さん曰く「お箸で切れます」ということだったが、よくある“やわらか口上”に「またまた~」と思いつつ箸を入れると、サクッとしつつも本当にすんなりと切れた。

 汁気が程よく絞られた大根おろし(よく見たら「追い大根おろし」も!)が肉にしっとりとまとわりついて、しかしカリッと深く揚げているので衣が萎えることもなく、肉はジュワジュワとおいしい。ごはんは左手にずっしりするほど重たく盛られ、キャベツとごはんとジュワジュワ大根おろしヒレかつのバランスを見ながらもぐもぐ。とんかつ欲、満たされる~!

 さらに、うれしいのが豚汁だ。とんかつ屋では多い豚汁だが、お椀一杯、具だくさん。よーく煮こまれた根菜に温まる。これだけでごはんが食べられそう。お漬物まで妙においしくてごはんが飽きない。

素朴な豚汁は、この下にたっぷりの根菜と豚肉が入っていて甘やかなおいしさ。

 私がバランスを重視しながら箸を進めている間もホスピタリティは止まらない。私の熱いお茶は2回入れ替えられ、常にアツアツ。奥の人たちが「冷たいお茶はありますか」と言ったら、たっぷりの氷で冷やしたおいしそうなお茶をさっと提供していた。さらにキャベツが半分減ったあたりでも、すぐにキャベツを足しにやってくる。

 そんなこんなでヒレかつを大満足で食べ終えると、テーブルがさっと片付けられ、まさかのコーヒー登場。喫茶店特集の「散歩の達人」を読んでいる店主だけあって、これがまたなかなかおいしく、程よい量でうなってしまった(ちなみに店主は私がとんかつの最後の一切れにとりかかる寸前、お姉さんに「コーヒー用意して」と静かに指示していた)。

意表をつかれたコーヒー。とんかつ後のコーヒーは妙においしい。

 帰りしなには店主が厨房から現れ、「3階まで階段を登っていただきありがとうございました!」と御礼を述べられた(全員に言っていた)。雑居ビルだが店の外にある専用トイレに入ればピッカピカだし、この店主、ただ者ではない。「小さなお店の大きな満足」というキャッチフレーズが箸袋に書かれていたが、大納得である。

 とんかつはおいしいし、やたらに良くしてくれるし、新宿でひとりのときは必ずやココへ、と思わされてしまった新宿の夜。ちなみに同ビルの2階はギラギラな男性パンツ専門店なので男の方はぜひ。

卯作
所在地 東京都新宿区新宿3-21-1 清水館3F
電話番号 03-5269-8849
[2015年2月来訪]

北條芽以(ほうじょう めい)
神奈川県鎌倉市生まれ。情報誌編集者を経てフリーライター、料理本の編纂を行う。好きなのは炭水化物(特にごはん)とお肉の組み合わせ。お酒はあまり飲めない。「左手にごはん茶碗を!」

Column

北條芽以のLOVEレストラン

美味なるLOVEなひと皿を求めてレストランに通う日々。
著者が偏愛する、この季節、このお店のLOVEはいったい何? あなたの次のレストラン選びに参考になること間違いなし!

2015.02.25(水)
文・撮影=北條芽以