今月のテーマ「賢者の言葉」
【MAN】
著者の原風景を描いた、感涙必至の自伝的コミック
昭和と平成の大きな違いは何か。常々感じているのは、子どもや若者を大らかに導く大人がいなくなったこと。受験や就職といったわかりやすいハードルにつまずかないコツは仕込んでくれても、人生の重荷の始末を教えてくれる人がめっきり減った。「口を出していい立場」にいないなら生半可な助言はするな的な空気もあるから、教え諭す役を親や教師にばかり押しつけている気がしてならない。
だが、少年のしげーさんは、集落の家々でお手伝いをするのんのんばあから、たくさんの先人たちの知恵を聞く。のんのんばあは、親でも先生でもないし、学校もろくに行っていない。それでも市井の賢者のような存在だ。子どものくせに大人以上に聡明なしげーさんも、ときに潰れそうな心を彼女の言葉で楽にしてもらう。しげーさんの父親も、つぶやく内容がいちいち本質を射抜いてカッコいい。貧しかった昭和の子どもは、言葉にだけは贅沢だったのかも。
『のんのんばあとオレ』(全1巻) 水木しげる
ケンカに明け暮れ、貧しくてもたくましかった昭和初期の少年たち。その一員だった幼いころのしげーさんがケンカより燃えたのが、絵や妖怪のこと、幼いながらも純粋だった恋。しげーさんの女を見る目の確かさに感心するけれど、それゆえに恋の結末はいつも切ない。
講談社漫画文庫 650円
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2015.02.05(木)
文=三浦天紗子