オカルトとアート、じつはかなり近い親戚関係なんじゃないか⁉
最後は今回の“目玉”である、アメリカ・ニューヨーク出身で、実験的ヴィデオ・アーティストの先駆者としても知られるトニー・アウスラーさんの作品です。彼は、実体のないものに関心を持ち、個人的にも多くの心霊現象の資料をコレクションしながら、世界のあり方を外から客観的に見ようとしている作家。
今回の展示作品は、思いっきりわかりやすく“見えないものを見よう”としてくれています。巨大な目玉がいくつもぶら下がっていて、あらゆる方向を向いているのですが、いくら大きな目玉でも、会場全体を見渡すことはできません。その限界が、逆に見ることの難しさ、認識の限界、そして私たち自身の限界を思い知らされる作品でした。
また、「誰も見ていないときに月は存在するのか?」という古典的な量子力学の観測問題も想起させられます。月を見なくても、月の光が当たった窓を見れば月を部分的には観測したことになるかもしれないと考えると、あの大きな目玉も、一体どこまでを観測していると言えるのか、厳密にはわからなくなります。「目」は情報を受け取る最も手っ取り早い手段ではありますが、同時に、とても曖昧で限定的なものであることを改めて実感しました。
また、彼のペイント作品を鑑賞している際に、不思議な現象も起きました。彼が幼少期に見ていた悪夢を描いた絵を照らす照明だけが、何度も切れたのです。館内を案内してくれた方も「こんなことは普段起きないのに……」と恐れ慄いていましたからホンモノです。ゴースト展ならではのポルターガイスト現象が起きたに違いありません。いい体験をさせていただきました。
というわけで、他にも紹介したい作品は山のようにあったのですが、文字数の関係で紹介はここまで。後の作品も含め、是非自分の目で“ゴーストたち”を観測してみてください。全20組(国内16組、海外4組)による107点の作品で、私は2時間くらいかけて鑑賞したのですが、正直なところ、もう半日くらいは過ごせるほど充実した展示内容でした。
ゴースト展は、ただ、怖いというだけではなく、土地に根ざしたものや主観的な幻のようなもの、あるいは歴史的な記憶の蓄積など、さまざまな視点で“視えないもの”と向き合える展示で、大変面白かったです。もっと、ずっと遠くまで時空を超えて飛んでいって、これまで生きてきた全世界の動植物の心の中や記憶までをも見通さない限り、世界を完全に見ることはできないのかもしれないと感じました。
また、この展覧会には街そのものが作品になる仕掛けもあり、前橋の市街地を歩きながら「ゴースト」を探す楽しみが設置されています。前橋は昭和の風がまだ角打ちあたりで息してるのに、すぐ隣ではサードウェーブ系コーヒーが意識高めに香ってるような、過去と未来が渾然一体となった異世界系の街並みです。そこに立ち現れる「ゴースト」とはどんなものなのでしょうか? ワクワクものなのでぜひお楽しみください!
アーツ前橋「ゴースト 見えないものが見えるとき」
角 由紀子(すみ・ゆきこ)
2013年にオカルト専門メディア「TOCANA」を立ち上げ、約8年間編集長を務める。映画やテレビ、ラジオの企画・出演も多数手がけ、近年はフリーランスのライター・オカルト研究家として活動。自身のYouTubeチャンネル「角由紀子のヤバイ帝国」は登録者30万人超。著書に『オカルト異世界話』(竹書房 漫画原作/漫画グラハム子)、『引き寄せの法則を全部やったら、効きすぎて人生バグりかけた話』(扶桑社)などがある。
