
2010年から開催され、3年毎に開催されている「あいち」の国際芸術祭。これまで、さまざまな形で開催されてきた芸術祭だが、6回目となる国際芸術祭「あいち 2025」では「灰と薔薇のあいまに」というテーマに62組のアーティストが参加している。
このテーマは芸術監督であるフール・アル・カシミが現代アラブ世界を代表する詩人・アドニスの詩の一節からとった言葉で、極端な二項対立の議論に陥ることなく、その「あいま」にあるニュアンスに富んだ思考で世界を解きほぐそうという想いが込められている。SNSやネット空間に留まらず、私たちの身近な生活にまでラディカルな言葉や思想が広がってきている昨今、その言葉は、そして展示は私たちに多くの気づきを与えてくれる。
自身も劇団「果てとチーク」(12月11日~STスポット、2026年1月15日~シアター711にて新作『だくだくと、』を上演予定)を主宰し、透明化された断絶を、真摯にそして軽やかに描くことで怒りや憎しみをささやかな希望に導く升味加耀と「あいま」を巡った。
3つの展示会場を巡ることで“人のありよう”に思いを馳せる

国際芸術祭「あいち2025」の会場は大きく3つ。愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなかの3箇所だ。名古屋市内の中心部に位置する文化施設と、国内有数の窯業地・瀬戸のまちなかという、都市(アーバン)と郊外(サバービア)を巡ることのできる展示構成だ。

展示の大きな特徴は参加アーティストの出身国。国内出身26組を含むアジアのアーティストに加え、中東、アフリカ、中南米など非欧米圏のアーティストを多数紹介しているところだ。
「かつて、第三世界と呼ばれていた国のアーティストが多いのが印象的でした。灰と薔薇でいうと、灰を被ることが理不尽に多い世界。その中で彼らは何を訴え、何を作品として表現しているのか。
同じ地球に生きる人間として、どちらか一方が平和であればそれでいいということではない。ほんのひとつの消費に至るまで、構造上、誰かを踏みつぶしている可能性がある。そんなことを考えさせられます」(升味さん)


先住民族にルーツを持つアーティストや、さまざまな理由で出身地域とは異なる場所で活動しているアーティストのように、自らの社会的・文化的アイデンティティを見つめ直しながら表現を模索するアーティストも数多く含まれており、芸術祭を巡っていると、自然と心が千々に乱れる。
「『あいま』ということは極端な考え方に囚われるのではなく、自分の頭で考えて揺れ動くことなんだと感じました。善悪の二元論ではなく、どちらが、どうすればいい社会なのか? という問い。作品に出会う度に『あいま』に引き戻されるようです」(升味さん)
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- 文・写真=CREA編集部
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升味加耀