2026年に開催される前橋国際芸術祭。前橋市立の美術館「アーツ前橋」を中心に、「白井屋ホテル」や「まえばしガレリア」といった中心市街地に点在するアートスポットやまちづくり活動をネットワークで結ぶこのイベントは“街とともにあるビエンナーレ”として注目を集めている。

 そんな前橋のアートの発信地でもある「アーツ前橋」で現在開催中のユニークな展示が「ゴースト 見えないものが見えるとき」(~12月21日)だ。見えるもの・見えないものが生み出す謎めいた魅力に迫る注目の展示を見える世界と見えない世界を行き来する、オカルト研究家の角由紀子が巡った。


オカルトとアート、じつはかなり近い親戚関係なんじゃないか⁉

 美術館って、時々「見に行かないと、なんか損しそう」っていう展示がありますよね。あの、心の奥でカルチャー魂がムズムズしてくる感じ。今回ご紹介する群馬県前橋市の美術館・アーツ前橋の「ゴースト ―見えないものが見えるとき―」展は、まさにそのムズムズ案件です。絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションなど多様な表現を通じて「ゴースト」を扱うんですって。

 ゴーストを扱うアートって何? って皆さん感じるかもしれません。でも私は、アートとスピリチュアル、そしてオカルトは、じつはかなり近い親戚関係にあると思っています。そもそもアーティストは、昔から“見えないものを形にする役割“を担ってきました。宗教画もそうですし、シュルレアリスムも、印象派だってそう。みんな、見えない“何か”を描こうとしていたんです。

 そして「創造力」や「美意識」って、ロジックでは説明できませんよね。ふと“どこからともなく降ってくる”インスピレーションの正体って、もしかしたら魂やゴースト界からのバイブスや電波なのかもしれない……と、私は思うのです。

 だから、「アート」のその先には、いや根底には、“ゴースト的な問い”があるに違いないわけです。「なぜ人は“感じる”のか」「なぜ生まれて死ぬのか」――アートを突き詰めると、そういった、オカルティックでプリミティブな問いかけに必ず直面することになると私は思っています。

 だからこそ、このゴースト展は時代をすこぶる先取りしてると言えます。これまでもアートとオカルトの交差領域を狙った展示はちょこちょこありましたが、こんなにど真ん中から突っ込んだ展示は、正直、日本では初めてです。なにせタイトルが「ゴースト展」ですからね。……そりゃ、行くしかないでしょう。

本格的な霊感持ちも大興奮の美術展

 美術館に着いて早々、入り口付近にある図書室の前で高校生くらいの女の子に声をかけられてビックリしました。「角さんですよね! 私、小さい頃からユーレイがバンバン視えるんです。だから、この展示が楽しみで、母と来ちゃいました。フヘヘ」。

 ……なんか、“ガチな人”が現れたのです。どうやら今回は、本職の霊感持ちさんたちまでもがワクワクしてるらしい。しかも見渡せば、スピリチュアル女子に混じって、真面目そうなおじさん、アートっぽい帽子の人、ラブラブのカップルまでが展示会場に吸い込まれていきます。キュレーターの井波吉太郎さんが「今回は来場者が多くてゴースト人気を実感してます」と話していましたが、本当にみんな好きなんだね、“見えないもの”ってやつが……。そんなことを考えながら、私もその一団に混ざって、美術館の中へと足を踏み入れました。

次のページ 実は身近に存在している“何かの気配”