さまざまな視点から提示される“ゴースト”たちが想像力を刺激する
地下に降りると、またもや雰囲気が一変します。そこはもう、ちょっとした精霊の世界。シリアスだった上階とはうって変わって、どこかコミカルで、ファンタジックな空間が広がっていました。
まず目に飛び込んできたのは、私も大ファンであるオカルト漫画の巨匠・諸星大二郎先生の原画。壁一面に並ぶ独特なタッチの線と余白のリズムを見ただけで、もう脳内に鈴の音が鳴りはじめます。これはもう、テンションが上がらないわけがない。
そしてその先には、今をときめく人気作家のヒグチユウコさんの作品が待ち構えています。幻想と毒気のバランスが絶妙で、かわいいのに、どこか“見えてはいけないもの”が潜んでいる。しかも、ただただグロテスクなB級スプラッターピエロ映画『テリファー3』(もちろん褒めています)のオルタナティブポスターまで描いているというんだから、サブカル界隈の琴線をくすぐり倒してくるわけです。
そして、いよいよ美術館ならではの、ドーンと空間を使った大掛かりなインスタレーションが登場します。山内祥太さんの新作は、“進化しすぎた人間”がテーマ。
人が進化を極めて肉体を失い、魂だけの存在になったとき、果たしてどこへ行き、何を見出すのか――。そんな壮大な問いを、光と映像とAIを駆使して表現しています。目の前にそびえるのは、キューブリックの『2001年宇宙の旅』に出てきそうなモノリス的な画面です。SF的な世界観なんだけど、同時にどこか宗教的でもある。デジタルの光に包まれているのに、見ているうちに“魂”という古めかしい言葉が浮かんでくるわけです。
この作品を前にしていると、「未来におけるゴーストとは何か?」と考えざるを得ません。テクノロジーの進化が進めば進むほど、逆に“人間の中の見えないもの”を、誰もが意識せずにはいられなくなる。そう考えると、山内さんの作品は “デジタル幽霊のはじまり”を描いているのかもしれません。
