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日常を非日常に変え、まるでアメリカを訪れたかのような気分にさせてくれるアメリカンダイナー。そんなお店たちが今“写真映え”するとInstagramなどのSNSでも多くの注目を集めています。
そんなアメリカンダイナーの醍醐味のひとつが、90年代に一大ブームを巻き起こし、今尚その美味しさを進化させているグルメバーガーです。ファストフードとは一線を画すその美味しさは、少し贅沢したいときにもぴったりですよね。
特集「ダイナーでハンバーガー」の第5弾となる今回は、“80年代ロック”に魅せられた秘密基地のようなお店「ONE THE DINER」を訪問しました。
製薬会社社員の安定を捨てチャレンジしたオーナーの“夢の店”

東京都目黒駅の東口から徒歩約6分。駅前の喧騒から少し離れた国道沿いに佇むのが、渋いレンガ貼りの外観が特徴の人気店「ONE THE DINER」です。2015年の4月の創業から今年で10周年というお店に一歩足を踏み入れると、アメリカンでロックンロールな雰囲気が一気に押し寄せてきます。
80年代を席巻した伝説的ロックバンド「KISS」のポスターや当時の人気ハリウッド映画のフィギュア。さらには、トム・クルーズの映画『カクテル』をイメージして作ったというL字型の大きなバーカウンターがお店の中央でピカピカと輝いています。

秘密基地のような空間に“好き”をこれでもかと詰め込んでいるオーナーの一見悦矢(いちみえつや)さんですが、そんな彼の経歴は意外なものでした。
「元製薬会社のサラリーマンで、医療関係者の方々相手に自社の製品を売り込むMRという仕事を12年間ほどしていました。ただ、学生時代に長らく飲食系アルバイトをしていたこともあり、頭の片隅に自分の好きが詰まった店を開きたいという願望はありましたね」(一見さん、以下同)
製薬会社での安定した収入を捨ててまで挑んだというアメリカンダイナーの開業。そこに至るまでの道のりを聞きました。
「サラリーマンをバリバリやっていた30歳の頃にふと、夢を捨てたまま過ごすことに違和感を覚えました。店内を見ればわかりますが、私は80年代のロックが大好きでして、そういったものに囲まれたお店を開きたかったのです。実を言うとアメリカンダイナーという形態を選んだのも、『ロックに合うお店ってなんだろう』と考えた結果です」

競合店ひしめく目黒駅前から少し離れ、自分らしい時間を作りやすいエリアを選んだ一見さんでしたが、開業当初から順風満帆とはいかなかったそうです。
「バーカウンターのせいでお酒がメインのお店だと思われたようで、日中の来客が少なく、開業から2年くらいは赤字続きでした。そんな折にテレビでグルメバーガー特集を目にして、お店で出しているバーガーをより本格的なものにしようとメニューを見直し、バーガーをメインに打ち出すようにしたのです。すると、ポツポツと客足が増え、おかげさまで多くのリピーターさまに支えていただけるようになりました」
リピーターが多いという「ONE THE DINER」ですが、その理由は一見さんの語る“肩肘を張らないでほしい”というマインドに寄るところも大きいのかもしれません。
「僕の好きなL.A.ロックもそうなのですが、言葉を選ばずに言うとアメリカンダイナーの魅力ってダサ格好いいところにあると思うんですよ。あまり気取らず、それこそバーガーなんてあまりお行儀良くなくかぶりついてほしい。そういうくつろげる空気がお客様にも伝わっているのかなと思います」
2025.10.07(火)
文=むくろ幽介
写真=志水 隆