――当たり前ですけど、人権を大切にする現場の方が働きやすいですよね。

細山 GS時代、パントリーで男性社員が「僕の彼氏がさ~」って普通に話していることがよくあって。LGBTQの方々に対する考え方ひとつ取ってみても、日本の会社で、「俺の彼氏がさ」と普通に言える環境があるかというと、そうは思えないですよね。

 GSには「みんなが自分のままでいていい」というカルチャーが当たり前にあって、それはむちゃくちゃ好きだったなと、いまだに思いますね。

「年収は2社目で1000万円を超えた後、今はその半分以下」ゴールドマン・サックスを退社した細山さんの現在

――その後、ゴールドマン・サックスは3年で退社されて、今は動物医療の会社を起ち上げたそうですね。

細山 GSを辞めたのは、証券アナリストのようないかにも金融っぽい仕事も経験したいと思ったのがひとつと、もうひとつは、当時の彼女に振られて自暴自棄っぽくなっていたところもありました。

 20代前半くらいまでは共依存体質で、本当の自分を知ってほしい、そのうえで見捨てないで、みたいな気持ちが強かったんですよね。

――それはいじめの経験もあって、というところでしょうか。

細山 そうだと思います。いじめられた経験をきっかけとした「いつか裏切られるんじゃないか」という恐怖心が、当時から今に至るまで心の底にあるかもしれません。

 もちろん、いじめは絶対にないほうがいいし、僕自身、経験せずに済んだらそれが一番良かったです。一方で、あの経験をしたから人の痛みに対して敏感になれたのではないかとも思っています。

 こんな風に言うと、「あの経験があって良かった」ときれいにまとめられちゃいがちですけど、重要な経験であったこともまた確かです。

――キャリアでも、いろんなことを経験されていますよね。

細山 芸能をやって、政治家になりたい時期もあり、そこからGSに入ったりと、けっこうクネクネした人生で。年収も、子役時代のMAXが600万円で、GS時代は1000万いかないくらい。で、2社目で1000万円を超えた後、今はその半分以下なので、乱高下しています(笑)。

 ただ振り返って考えると、小さい時から動物が好きで身近にいましたし、高校時代は獣医師になることも真剣に考えてたんですよね。なので今は究極、一番本当に好きな動物に関わるところにやっとたどり着けたんじゃないかなって思うんです。

 それに動物は痛みを言葉にできないじゃないですか。そういう声なき声を掬っていくことは、まさに僕にうってつけの仕事じゃないかなって思ってるんです。

撮影=細田忠/文藝春秋

2025.09.03(水)
文=小泉なつみ