パンダ4頭はトラック2台に分乗、車内の温度は約18度

 6月28日(土)はいよいよ出発の日。パンダたちは「いつも通りたくさんの竹を食べ、しっかり寝て、今日を迎えられました」(飼育スタッフの中谷有伽さん)。朝、出発に向けた作業が始まると、パンダたちは落ち着きをなくすこともあったが、これはスタッフの想定内。健康状態は良好だ。

 一般的に、輸送されるパンダは、輸送用のケージに1頭ずつ入る必要があり、なかなか入ろうとしないパンダもいる。4頭はどうだったのか。「いつもと違う雰囲気ではありますので、(パンダたちは)少し戸惑うこともありましたが、私たちの想定内のスムーズさだったと思います」(同)。

 中谷さんは「中国でパンダたちを担当してくれるスタッフの方と綿密に打ち合わせをしており、それぞれの個性や特性もしっかりと引き継ぎをしていますので、安心して送り出せます」「医療技術や飼育技術が整った場所に移りますので、高齢の良浜は、安心してのんびりといつも通りに過ごしてもらえたら。子どもたち3頭は、母親になる機会が必ず出てくると思いますので、そうしたときに、アドベンチャーワールドで暮らしていたときのような健康な状態で子育てをする姿を、いつか私も目にしたいと思います」と語った。

 4頭は2台のトラックに分乗して、午前8時20分ごろ出発した。輸送をサポートしたのは南海エクスプレス。同社によると、輸送中はパンダにとって適切な約18度を保てるように、トラック、待機場所、飛行機の温度調整について、関係する各社と入念に打ち合わせ、準備を進めてきたそうだ。

 同社と平野ロジスティクスの社名が入ったトラックには、冷凍機を搭載。この2台のトラックに、三菱重工グループのRCC(菱重コールドチェーン)のサービスカーが同行して、緊急時の温度対応に備えた。この日の気温は30度近くあった。パンダのために、輸送中の温度管理はとても大切だ。

 これらの会社は、アドベンチャーワールドが前回、2023年2月22日に永明(えいめい)、桜浜(おうひん)、桃浜(とうひん)を中国へ送り出した時と同じ。だが、飛行機の運航会社は変わった。前回は全日本空輸(ANA)のチャーター機、今回は中国・順豊航空のチャーター機だ。順豊航空は、上野動物園にいたシャンシャン(香香)、リーリー(力力)、シンシン(真真)も運んでいる(参照:シャンシャン中国輸送大作戦の舞台裏 中国への伝言は、苦手なニンジンは 「すりおろしたほうが食べます」)。

 筆者もタクシーと列車で関西国際空港に向かった。4頭をのせた飛行機は午後3時40分ごろ離陸。見送りに集まった人たちは、パンダたちの名前を呼んだり、「元気でね~!」と声援を送ったりしながら手や旗を振っていた。筆者の近くにいた小学生くらいの男の子は、泣きじゃくりながら父親と思われる男性にしがみついていた。

 4頭の渡航には、アドベンチャーワールドのスタッフのほか、事前に成都基地から来ていた飼育の専門家も同行。飛行機内の温度を18~20度に保つように調整するなど、パンダたちが落ち着いて過ごせるように配慮した。飛行機は、現地時間で午後6時51分(日本時間午後7時51分)、成都双流国際空港に到着。その後、4頭は成都基地の隔離検疫施設に移動した(参照:「中国に和歌山生まれのパンダ10頭が集結!」「200頭以上のパンダが暮らす「成都基地」で日本生まれのパンダに会うには?」)。

 4頭がいなくなった後、アドベンチャーワールドは、改修した「ブリーディングセンター」をレッサーパンダの住居にして、7月19日(土)から公開している。ちなみに上野動物園もかつて、ジャイアントパンダのリンリン(陵陵)が暮らすパンダ舎でレッサーパンダを飼育していた。レッサーパンダは、リンリンが2008年4月30日に死んだ後も住んでいたが、2011年2月21日のリーリー、シンシン来園前に、他のエリアへ移った。

 パンダをきっかけに白浜へ足を運ぶようになり、たくさんの思い出ができた人は少なくないだろう。筆者もその一人だ。今後、パンダが再び白浜に来るかは分からないが、来ても来なくても、いつかまたアドベンチャーワールドと白浜を訪れたい。

中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(12カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo

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2025.08.22(金)
文・撮影=中川美帆