東京・上野動物園で生まれ、日本でパンダブームを巻き起こしたジャイアントパンダのシャンシャン(香香)が中国へ渡って2カ月が経ちました。上野動物園から中国へパンダを送り届けたのは、ユウユウ(悠悠)が北京動物園に行った1992年11月以来、約30年ぶりです。中国までシャンシャンに同行した同園の職員二人のうちの一人、冨田恭正副園長兼飼育展示課長を中心に話を聞きました。


 コロナ禍による延期を経て、ついにシャンシャンの中国行きが決まったと東京都の小池百合子知事が発表したのは2022年11月18日。渡航日について小池知事は「輸送にかかる手続きの期間を見込み、来年2月中旬から3月上旬となる予定です」と幅をもたせました。この“輸送にかかる手続き”が大変だったのです。

 まず、シャンシャンを運ぶ飛行機は貨物機とすることにしました。冨田副園長は「人がついて動物を見られるようにしようという話し合いの中で、普通の旅客便だと荷物室に人が行けないので、貨物便じゃないと無理だねということになりました」(冨田副園長、以下・同)。

 欧米なら、例えばFedExの貨物機によってアメリカ、カナダ、フランス、イギリスと中国の間でパンダを運んだことがあります。2023年4月27日には、FedExがアメリカのメンフィスから運んだパンダが上海に到着しました。

 一方、日本と中国の間のパンダ輸送では、1972年10月28日に来日したランラン(蘭蘭)とカンカン(康康)は日本航空(JAL)のチャーター便の貨物機を使ったものの、貨物機の実績は多くありません。また、航空会社はJALか全日本空輸(ANA)が基本です。

 上野動物園の場合は、例えば前述のユウユウを日本から北京に運んだのはJAL、シャンシャンの両親のリーリー(力力)とシンシン(真真)を2011年2月21日に上海から日本へ運んだのはANAでした。

 あるとき上野動物園は、阪急阪神エクスプレスから、順豊(じゅんほう)航空のチャーター便なら可能性があると紹介されました。阪急阪神エクスプレスは、上野動物園と神戸市立王子動物園のパンダの輸出入をすべて手がけています。順豊航空は中国の宅配グループ順豊の航空貨物部門。パンダの輸送実績はゼロです。

「定期便かチャーター便かはどちらでもよかったのですが、コロナ禍で定期の貨物便がなく、とにかく可能性のある便を探して、たどり着いた結果です」

 シャンシャンは、繁殖のため2020年12月末までに中国へ行く予定だったのに、渡航は延期を重ねました。コロナ禍による規制で、同行者が渡航できなかったり、飛行機が飛ばなかったりしたためです。2017年6月12日生まれのシャンシャンは、3歳で渡航するはずが5歳となり、繁殖できる年齢に達していました。

「シャンシャンが大きくなっていっちゃうので、(渡航できる)可能性を信じて準備を進めました」

 中国の貨物機を利用するのは簡単ではありませんでした。順豊の職員はさまざまな機関へ問い合わせました。

 結果的に、「私たちは、一時的に順豊航空の会社のクルーとなって乗ることになりました。そのためには空勤証(くうきんしょう)を取得する必要があり、いろいろな手続きが求められました。要は、テロリストじゃないよね、安心できる身分の人だよねという証明です。それはそうですよね。見ず知らずの人をクルーとして乗せるわけですから。こうした証明書を出すのが、かなり大変でした」

 さらに、搭乗予定者が新型コロナウイルスに感染した場合に備え、上野動物園の福田豊園長ら3人もビザや空勤証を取得しておきました。

 小池都知事は2022年12月23日、年内最後の定例会見で、シャンシャンが中国へ行く日が2023年2月21日に決まったと発表しました。偶然ながら2月21日は、12年前にシャンシャンの両親が中国から上野動物園にやってきた日です。

 その後、少しヒヤリとすることも起きました。在日中国大使館は2023年1月10日、中国を訪れる日本人へのビザの発給を一時的に停止したと発表。「ビザはその前に取得していましたが、大丈夫かと確認しました」。ビザの発給再開は1月29日に発表されました。

2023.04.29(土)
文・写真=中川美帆