シャンシャンは怒った?

 飛行機は午後5時15分(日本時間で午後6時15分)に四川省の成都双流国際空港に着陸。シャンシャンが先に降ろされ、保税蔵置場において、中国ジャイアントパンダ保護研究センター(CCRCGP)側にシャンシャンを引き渡しました。

 空港には中国の報道関係者が待ち構えていました。このとき撮影された1本の動画が日本で話題になりました。ケージ内のシャンシャンが鳴いていて、SNSに投稿した中国の人が日本語で「シャンシャン すごく怒ってる」と書いています。

 本当に怒っているのでしょうか。冨田副園長に尋ねると、「怒っているというよりは、おそらく怖かったということじゃないのかなと思います。バッと人に囲まれてしまって。さほど長い時間ではありません」とのことです。

 シャンシャンをのせたトラックが空港を出たのは午後6時50分。冨田副園長と齋藤さんは一般の出口から出て、中国側の職員が用意した車に乗り、高速道路のサービスエリアでシャンシャンをのせたトラックと合流しました。

 行き先は、四川省にあるCCRCGPの雅安碧峰峡(があんへきほうきょう)基地(以下、雅安基地)。上野動物園によると、約70haの広大な敷地に64頭(2023年2月時点)のパンダが暮らしています。同園の職員はコロナ禍前、ここで何度か研修を受けたことがあります。「基本的な飼育の管理や繁殖、ペアリング、人工保育の仕方などを学んできています」

 トラックは山を登り、午後9時54分に雅安基地に到着。夜にもかかわらず、多くの職員が待っていてくれました。「シャンシャンはトラックから出されるとき、起き上がって、こちらを見ていました」

 シャンシャンが運ばれていく様子を冨田副園長と齋藤さんは見守りました。二人がシャンシャンを最後に見たのは、基地内の検疫施設に入る手前。シャンシャンに声はかけませんでした。「雨が降るなか、皆さん速やかに、かつ、とても慎重に運んでくださいました。動物を運ぶときは一歩間違えると危ないので、真剣そのものです」

 シャンシャンは検疫施設に入り、午後10時6分、無事にケージから出たそうです。検疫施設は衛生管理上、基地の飼育員でも限られた人しか入れず、冨田副園長と齋藤さんも入ることができません。検疫では「採血をすると聞いていますが、レントゲン撮影をするとは聞いていません。少なくとも麻酔をかけることはないと思います」

 二人は、シャンシャンの性格やえさなどの情報を雅安基地の職員と共有しました。筆者は、中国でニンジンを丸ごと食べるパンダを何度も見たことがありますが、シャンシャンはニンジンが苦手のようです。

 雅安基地の職員にどう伝えたのか冨田副園長に尋ねたところ、「ニンジンは、すりおろしたほうが食べますよ、と引き継ぎでお話しました」とのことです。

 また、シャンシャンは雅安基地に来た当初、好物のはずのパンダ団子を食べませんでした。上野動物園でつくられたものとは違うのでしょうか。「基本的には同じはずですが、水分が少なめだと聞きました。粉ものは、水分で感じがずいぶん変わりますからね」

 雅安基地から車で30分ほどの雅安の市街では、通訳の人が二人を「シャンシャンを連れて来た人たち」と紹介すると、「おお! シャンシャン!!」という反応だったそう。「シャンシャンのことは、一般の市民の人たちもそれなりに理解していると感じました」

 シャンシャンの到着翌日には、和歌山・アドベンチャーワールドから3頭のパンダが成都に来ました。シャンシャンと合わせ4頭のパンダが日本から来たことや、成都にいるホーファ(和花)というパンダの愛らしさなどから、中国でもパンダ人気が高まっています。

2023.04.29(土)
文・写真=中川美帆