目隠しのボードは取り付けなかった

 そして迎えた2月21日、シャンシャンは、午前6時13分に起きて、午前7時10分ごろにトラックで上野動物園を出発。成田空港へ向かいました。一方、上野動物園から中国へ行く冨田副園長と飼育係の齋藤圭史さんは、電車で成田空港を目指しました。そのほうが確実に到着できるためです。

 成田空港に着いた二人は、一般の搭乗者が利用する、空港内を走るリムジンバスに乗りました。二人が上野動物園でシャンシャンと別れてから再会したのは、飛行機に乗ってからでした。

 シャンシャンは午前8時30分ごろ成田空港に到着。国際空港上屋という会社の保税蔵置場(ぞうちじょう)で、シャンシャンをトラックにのせたまま、輸出通関を済ませました。そして上屋(空港や港で貨物の積みおろしや一時保管などをする倉庫)へ。順豊航空は成田空港に自社の上屋がないので、提携するJALカーゴの上屋を利用しました。

 阪急阪神エクスプレスによると、実はここで、シャンシャンが入ったケージ(輸送用の檻)にボードを取り付ける可能性がありました。搭乗時にシャンシャンがケージのすき間から外を見て、興奮しないようにするためです。取り付けるかどうかは、上野動物園の職員(中国へ行く二人とは別)が立ち会って判断します。シャンシャンは興奮する気配がなかったので、ボードは取り付けませんでした。

 シャンシャンは、出国手続き中にパンダ団子(とうもろこし粉などを混ぜて加熱したもの)、リンゴ、タケノコをよく食べ、落ち着いていました。いずれもシャンシャンの好物ですが、タケノコはこの時期に日本で採るのが難しいので、中国産を用意してあげました。

機内の温度は8~10℃程度に

 飛行機は定刻の12時45分に成田空港を飛び立ちました。機内では、コックピットの後ろに冨田副園長と齋藤さんが着席。その後ろのメインデッキとは、パーテーションで区切られています。コックピットから15~18mほど後ろ、機体の中央付近に、ケージに入ったシャンシャンが積まれました。

 ケージのサイズは、高さ1,366mm(キャスター込み)、幅1106mm、長さ1680mmで、重さは約365kg。渡航のために、シャンシャンの大きさに合わせて作られました。

 阪急阪神エクスプレス総務課の仲嶋博文さんは「移動中の温度は、トラック内、機内いずれも8~10℃程度として、冷気がシャンシャンに直接当たり続けることがないように対応しました」と話します。

 飛行機が離陸して安定飛行に入ると、メインデッキに入る許可が下りたので、冨田副園長と齋藤さんは何度かシャンシャンの様子を見に行きました。シャンシャンは「やっぱり齋藤がいると落ち着くのかなというのは、なんとなく感じました」。齋藤さんは、シャンシャンが生まれた時からずっと飼育しています。

 冨田副園長は「飛行機に乗ってからも緊張していました。シャンシャンが機内でずっと暴れたらどうしようかと思いましたが、そんなことはありませんでした。寝てくれた時は、ああよかったと少しホッとしました」と当時を振り返ります。

2023.04.29(土)
文・写真=中川美帆