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 リーリー(力力)とシンシン(真真)の予定より早い帰国が明らかになったのは突然のことでした。上野動物園で2頭の高血圧の症状が確認されたのは昨年9月。以来、日中の専門家が健康状態の把握などに努め、今年5月ごろから2頭の中国返還を選択肢のひとつとして、東京都と中国野生動物保護協会が協議してきました。

 返還が正式に決まったのは8月28日(水)。「決定後、すみやかに公表しました」(都の職員)という通り、小池百合子都知事が8月30日(金)午後の定例会見で公表しました。それでも帰国まで1カ月しかありません。

 翌日の8月31日(土)午前はリーリーとシンシンの観覧に約80分待ちの行列ができました。観覧時間は約3分。近年の2頭の観覧では、シンシンの子育て中などを除き、ほとんど並ぶ必要がなく、観覧できる時間も無制限の時が多かったので、大きな変化でした。

検疫中は徹底的に隔離

 ジャイアントパンダを中国国外から中国へ送り出す際は、中国側が定めた衛生条件を満たす必要があります。日本の場合は30日間の検疫が必要で、その間は室内で飼育管理します。

 リーリーとシンシンの検疫は8月29日(木)をゼロ日として開始。検疫が始まると、飼育エリアでは、職員が白い防護服を着用して作業しました。検疫ではパンダの採血やレントゲン撮影などもします。

 上野動物園のパンダ舎の室内公開エリアは、パンダと観覧者の間をガラスで隔てているので、検疫中もパンダを公開できる環境です。非公開エリアには、パンダの寝室や、飼育係の管理エリアなどがあります。この非公開エリアも「リーリーとシンシン」「子どものシャオシャオ(暁暁)とレイレイ(蕾蕾)」の間を遮断。「ベニヤ板で壁をつくり、人が行き来できないようにしました」(上野動物園の冨田恭正副園長兼教育普及課長)。リーリーとシンシンは、検疫中も体調を崩すことはありませんでした。

2024.10.06(日)
文=中川美帆