![中国ジャイアントパンダ保護研究センター臥龍神樹坪基地で暮らすパンダ(2023年10月13日、筆者撮影)](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/4/1/1280wm/img_410495dcc2d44a03e03a868dd375db25201089.jpg)
上野動物園が2023年10月29日に開催した学生向けセミナー「飼育係だけ!? 動物園でパンダと働くシゴト案内」は、パンダに関わるさまざまな仕事を伝え、視野を広げてもらおうと企画されました。セミナーの様子を中心に、上野動物園のパンダにまつわる仕事を4回にわたり紹介します。
春は年に数日間しかないパンダの繁殖期
上野動物園には6人の獣医師がいて、「公益財団法人東京動物園協会 恩賜上野動物園 飼育展示課 動物病院係」に所属しています。ジャイアントパンダを担当する獣医師にとって、かなめの季節は春。一般的にパンダの繁殖期は春で、春の数日間しかオスとメスが同居して自然交配(交尾)し妊娠できる期間がないためです。
獣医師は、パンダの交配に適した時期を見極めることがとても大切。そのために用いるのが、発情周期によって膣の上皮細胞を染め分ける「膣スメア検査」です。赤・青・黄色に染まった細胞の数が、交配できる日の指標になります。
「オスとメスを同居させられるわずか数日間の見極めを失敗すると、繁殖は来年のこの時期まで待たなければならないだけでなく、オスとメスが闘争して大ケガをする恐れさえあるので、とっても大事なスリル満点の検査です」。上野動物園でパンダを担当する中国出身の獣医師はこう語ります。
![膣スメア検査。この図で赤が青を超えた「ファースト・クロミック・シフト」が発情ピーク(交配適日)の8日前、黄が赤を超えた「セカンド・クロミック・シフト」が交配適日の2日前を示すのが一般的だが、シンシンは「セカンド・クロミック・シフト」が交配適日とほぼ同日になる傾向がある。(筆者撮影。写真のスライドの内容は上野動物園が作成。以下同)](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/2/5/1280wm/img_25b06f09582be9f58fe2ed0c883ff9a984025.jpg)
上野動物園にいるオスのリーリー(力力)とメスのシンシン(真真)は自然交配で繁殖していますが、オスの精液を用いて人工授精する方法もあります。上野動物園では2015年に、中国の専門家の指導のもとで、リーリーに麻酔をかけて精液を採取しました。「中国スタッフに事前に確認した結果、パンダ舎で麻酔し自動車に乗せて動物病院に運ぶこととなった。繁殖期はすでに過ぎていたものの精液量、総精子数、活力、生存率、奇形率いずれも良好で、多数の凍結精液を作製することができた」と『つなぐ―上野動物園ジャイアントパンダ飼育の50年』(2023年3月発行)に上野動物園の職員がつづっています。リーリーの精液は「現在、動物病院の液体窒素タンクの中にあり、使う機会がなければ永久保存されます」(獣医師)
![リーリーの精液を採取。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/1/2/1280wm/img_12ba966665663e50fffa0d519a035ebc91215.jpg)
2024.03.17(日)
文・撮影=中川美帆