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ホッキョクグマの繁殖の難しさとは? 動物園が直面する課題

動物園での繁殖が難しいとされるホッキョクグマ。どんな要因があるのでしょうか。
「根本的に、出産に適した静かな環境を動物園の中につくることが難しい、というのがひとつあります。出産・子育てをするには静かな環境が必要ですが、昔の動物園では園内の物音を遮断することが難しかったというのもあったのかもしれません。
また、繁殖スペースである産室は光をシャットアウトして防音材を壁に使用した静かな場所。飼育員も一切立ち入らず、監視カメラで観察をします。生態への理解や出産に必要な事案というのは、担当者だけではなく、園全体で取り組まなければいけないことなんです。

ズーラシアでは、イッちゃんの妊娠がわかってからはお客様の(展示場近くへの)通行を止めました。今でこそ、動物福祉が浸透して当たり前になりつつあるので、みなさんも受け入れてくださいますが、昔はそうでなかったという事情もあったのかもしれません。

また、ホッキョクグマはすごく人気者なので、かつては手放したがらなかった園もあったかもしれません。今は個体を移動して新たなペアリングを行うことが、繁殖に効果があるとわかっていますし、国内飼育園館では、繁殖のために協力しましょうという体制が整っているので、力を合わせて取り組むことができています」
実はイッちゃん、2023年にも双子を出産しましたが、産まれた子どもたちは残念ながら数日で天へ旅立ってしまいました。
2025.08.09(土)
文=高本亜紀
写真=松本輝一