この記事の連載

「お前は何も思い出すな」

 一時停止されたままの画面には、声の主と思われる女の子の腕がまだ小刻みに揺れていました。 そして、その揺れに合わせて画面に映る女の子の腕がカク…カク…と徐々に伸び始めたのです

「出せテープ! 早く出せって!」

 声を荒げたのはFさんでした。彼はIさんからリモコンを奪うと荒々しくVHSをデッキから引き出し、グシャッ! とかかとで踏み潰しました。

「おい、何してんだよ!」

 戸惑う2人をよそに、Fさんはそばにあったコンビニの袋を引っ掴むと、ぐちゃぐちゃになったテープを入れてギュッと封をしました。

「もうダメだ。特にU、お前は何も思い出すな。これ以上は絶対やばい気がする」

 翌朝、ビデオテープはゴミ回収車に出され、以来2度と見ることはありませんでした。

 放送部だったメンバーの行方。

 あの写り込んでいた女の子の正体。

 何年経っても未だにそれらを調べたくなる強烈な衝動があり、いつか自分が過ちを犯してしまうのではないか……Uさんはそれがとても怖いといいます。

» 怪談特集を見る

次の話を読む“家の前を毎晩着物の女が通る”……様子がおかしい親戚宅でサラリーマンが体験した恐怖の一夜

← この連載をはじめから読む

2025.08.12(火)
文=むくろ幽介