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『そろそろ思い出したんじゃない?』

ブレブレのカメラアングルの中で、チラチラと画面に映り込むUさんと思しき手。それを見るたびに脳裏に、あの日の会話や西日が目に差し込む感覚、そしてこの後自分たちが何を見たのかがどんどんと蘇ってきていたと言います。
一行が階段で2階に上がったとき、Iさんが再び一時停止を押しました。
「ここ、U以外にも手が……増えてない?」
一時停止で揺れる幼き日のUさんと思しき手のそばに、もうひとつ細い女の子の手が写り込んでいました。
『そろそろ思い出したんじゃない?』
窓の向こうから女の子の声がしたのは、その時だったそうです。
3階の角部屋。人が立てる場所など全くない窓の向こうから、あの時夢の中で膝を抱えたままこちらを向いたあの女の子の声がしたのです。
2025.08.12(火)
文=むくろ幽介