国宝と1対1で向き合う、特別な空間

 次に案内された「国宝室」に展示されているのは1件のみ。

 こちらの展示室では、季節を感じさせる作品を中心に紹介しており、桜が満開だった取材当日に展示されていたのは、国宝の「花下遊楽図屏風(かかゆうらくずびょうぶ)」。

 「今から約400年前、江戸時代の初め頃の作品です。多くの屏風は右から左に向かってストーリーが描かれているのですが、右下は大きな桜の下で三味線を弾いたり、花を摘んでいる女性が描かれていますね。真ん中の空白になっている部分は、残念ながら関東大震災で被災し、失われてしまったのですが、佐々木さんだったらここにどんな場面が描かれていると想像されますか?」と案内人の絵画担当・土屋貴裕さんの問いかけに、佐々木さんは「それはもう、お花見をしながらお酒を飲んでいるシーンですね!」と即答。

 一方、左側の屏風に描かれているのは、桜ではなく海棠(かいどう)の花見を楽しむ人々の姿。男装姿の女性たちが歌舞伎踊りを舞う姿や、暗幕の裏側で支度をする人などが描かれている。佐々木さんは、解説に耳を傾けながら、ガラス越しに屏風を眺めたり、展示室中央に置かれたソファでじっくり向き合ったり――。

「この空間では集中して一点と向き合うことができるので、没入感がありますね。僕は今、こうして鑑賞しているわけですが、実際に間仕切りとして使われていた様子も想像します」(佐々木さん)

2025.05.01(木)
文=河西みのり
撮影=平松市聖