20年後は世界で一番嫌な指揮者になっている?

ルスティオーニ(1983年生まれ)は、ジェノヴァ歌劇場主席客演指揮者のアンドレア・バッティストーニ(87年生まれ)、ボローニャ歌劇場首席指揮者のミケーレ・マリオッティ(79年生まれ)とともに、イタリアの若手指揮者三羽烏と呼ばれる。

 現在31歳。順風満帆なキャリアを積んできたように見えるが、イタリアで評価される前から、国外でハードな修業を積んできた。見た目からは想像できないが実は下積みの長い苦労人なのだ。

「ロシアのミハイロフスキー劇場では2年間首席客演指揮者をつとめましたが、とても多くのレパートリーをこなさなければならず、『仮面舞踏会』に『トスカ』に『オネーギン』に『スペードの女王』『愛の妙薬』に『セビリアの理髪師』『さまよえるオランダ人』などのオペラのほか、バレエも指揮していました……クレイジーな日々でしたね。最初のキャリアを積むためには、いい経験だったと思います」

 演劇と音楽の偉大な融合であるオペラ芸術。今回の二期会の『蝶々夫人』は比較的伝統的な演出だが、前衛的な演出の場合、ときには指揮者と演出家が対立することもあるのがオペラの現場だ。

「ミラノ・スカラ座のそばで育ち、この劇場に通っていたので伝統的なプロダクションには愛着があります。イタリアでは前衛的でも美しい演出もあって、例えばダミアーノ・ミキエレットのモダン演出は人気があるし、僕も気に入ってます。気に入らない演出家は……今は、自分のキャリアを積むために我慢していますが、15年、20年たったら全部追い出したいです(笑)。20年後、自分は世界で一番嫌な指揮者になっていると思う(笑)」

 その後も稽古は順調に進み、歌手やオーケストラを次々に魅了して、日本でのオペラ・デビューに備えているというルスティオーニ氏。ありあまる才能が、この国でみつけた「蝶々さん」とは……期待は募るばかり。オペラ初心者にもぜひ観てほしい、ビューティフルで切ない愛の物語だ。

二期会名作オペラ祭『蝶々夫人』
URL  http://www.nikikai.net/lineup/butterfly2014/
会場 東京文化会館 大ホール
日時 2014年4月23日(水)18:30~
   4月24日(木)14:00~
   4月26日(土)14:00~
   4月27日(日)14:00~

小田島久恵(おだしま ひさえ)
音楽ライター。クラシックを中心にオペラ、演劇、ダンス、映画に関する評論を執筆。歌手、ピアニスト、指揮者、オペラ演出家へのインタビュー多数。オペラの中のアンチ・フェミニズムを読み解いた著作『オペラティック! 女子的オペラ鑑賞のススメ』(フィルムアート社)を2012年に発表。趣味はピアノ演奏とパワーストーン蒐集。

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2014.04.20(日)
文=小田島久恵
撮影=鈴木 遼