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父に「このおじさんはだれ?」と言われて

――『おんなの窓』は、そういう伊藤さんしか描かない「くだらないあるある」がたまらない。「おばさんがメンズサイズを着るとおじさんになる」現象とか、まさに!って。

 50歳を超えると、男も女もだんだん性別を超えてくるんですよね。うちの父親も最近、おばあちゃんそっくりになってきてギョッとします(笑)。

――物忘れやデジタルに弱いエピソードも、加齢なのか元々なのか際どいところがおもしろい。

 元々その気はあるんですけど、世の中の流れが早すぎてヤバイですよね。

 これは本でも描いたんですが、私の写真を見た父に「このおじさんはだれ?」と言われて。その時に父をボケたことにして私を立てるか、父を立てて私を知らないおじさん扱いするか、妹が必死に気を遣っていたのが腹立たしくて(笑)。父もたまにうちの猫をうちで飼ったこともない別の猫の名前で呼んだりしてるから、そろそろ怪しいかもしれない(笑)。

――自分のことも心配だけど、それ以上に親も心配な年齢です。介護に関しては足を踏み入れた感じでしょうか。

 そうですね。うちの両親はまだ自力で生活できてるけど、足腰が弱くなってきたので、三姉妹で分担して様子を見に帰ってます。田舎暮らしで車を返納しちゃったので買い物が大変なんですよ。自分で通販とかやらないので一緒に買い出しに行ったり、うちから送ったり。ゆるやかな介護ですね。

BTSの後はプリキュアのターン

―そして韓国。BTSにハマった話はいろんなところで描かれていますが、まさか伊藤さんが! と驚きました。

 自分でもびっくりですよね。周りに韓流ドラマのファンがいたり、『おるちゅばんエビちゅ(伊藤によるハムスターが主人公の作品)』が韓国でも発売されて韓国に行ったりしたのに、あんまり縁がなくて。

 それが、たまたまテレビの歌謡番組にBTSが出ているのを見て、何このかっこいい人たち?って(笑)。ちょうどコロナ禍のステイホーム中だったこともあって、気になって動画を掘りまくって、すぐにファンクラブに入って、娘も一緒だから余計に勢いが付いちゃったんだと思います。

――それまで「推し」みたいな人やモノはいました?

 歌舞伎は好きだったけど、この人! みたいな強烈な推しはいなくて。それがコロナ禍の鬱々もあって、爆発しちゃった(笑)。

――仕事前にBTSを流して、部屋をBTSでいっぱいにしておくというエピソードが最高でした。そんな伊藤さんたちを吉田さん(夫で漫画家の吉田戦車さん)はどう見てるんでしょう?

 何も言わず見守ってますね。で、私たちのBTS話をうんうんうんって聞いた後に、じゃあ次、俺話してもいいー?って。彼はウルトラマンとか戦隊モノとかプリキュアは昔からほぼ見てるので、吉田が話してるときは私の目が死んでます(笑)。

――お互いの推しの話を聞き合う! それが家庭円満の秘訣でしょうか。

 確かに、トイレットペーパーを替えるぐらい大事な家族の決まりですね。私、トイレットペーパーが交換されてない時はカンカンに怒っていいことにしてるんですよ。誰だー!って怒ると気持ちいいので、替えてないのを見つけるとやった!って(笑)。

――どっちに転んでも楽しそう(笑)。

 相手の話を聞くのは、自分が次に話すためでもあるんです。私これよりおもしろい話持ってるなーって思いながら順番待ちをしてる(笑)。ウケる話をすると家族内順位が上がるんですよ。私が勝手に思ってるだけなんですけど、昨日は飲みすぎたからお皿洗っとこうとかやって、自分の順位をバンバン上げるのが楽しい。

2024.08.03(土)
文=井口啓子
撮影=佐藤 亘